ガス室で命を絶たれる「元飼い犬」たちの叫び 愛犬の殺処分を選択する飼い主たちの言い分

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(写真)『老犬たちの涙 “いのち”と“こころ”を守る14の方法』より

次に紹介するのは、「引っ越し」を理由に行政施設に持ち込まれたトイプードルのお話です。

この子は、飼い主の海外赴任を機に捨てられた14歳のトイプードル。飼い主は、同居していた親の元にこの子を残して引っ越しましたが、「鳴き声がうるさくて近所迷惑になる。噛み癖もあるし、これ以上、世話はできない」と、母親が行政施設に持ち込みました。

「認知症も少しあるようですが、この子の立場に立って、鳴いたり噛んだりする理由を把握し、その原因を取り除いてあげれば状況は改善するし、世話はできると思います。ただ、『もともと子どもが飼っていた犬なんだから自分には責任がない』『手のかかる老犬の世話を押し付けられて迷惑だ』という思いがあり、早く手放したかったのでしょう……」と職員さん。

「最期を看取るのがつらい」と施設に持ち込む飼い主

最後に紹介するのは、「看取り拒否」を理由に行政施設に持ち込まれたポメラニアンのお話です。

私がある施設を訪れたとき、

「この子の最期を看取るのがつらいから」

と、中年の女性が持ち込んできたのは、年老いたポメラニアン。

(写真)『老犬たちの涙 “いのち”と“こころ”を守る14の方法』より

おかあさん、まって!

いかないで!

どこにいくの!?

わたしもつれていって!

おいていかないで……

キャリーケースの中から懇願するその子に背を向け、上品な身なりをした飼い主の女性は一度も振り返ることなく足早に去っていきました。

この子はその後、ガス室で命を絶たれました。

「私たちも、できることなら殺処分なんてしたくありません。ですが、犬を世話する職員数には限りがあり、収容スペースはつねに満杯。譲渡先が見つかりにくい老犬は、優先的に殺処分せざるをえないというのが私どもの施設の実情です。本来はどの子にも生きる権利があったはず……。命を絶つ瞬間はいつも心が痛みます。捨てる人間が悪いのに、なぜこの子たちが犠牲となって、殺されなくてはならないのかと……」

近畿地方の行政施設で働く、職員さんの言葉です。

今回、3つのエピソードを紹介しましたが、みなさんは何を感じましたか?

『老犬たちの涙 “いのち”と“こころ”を守る14の方法』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

老犬たちを殺しているのは、施設の職員さんではありません。それは、彼らの命に対する責任を放棄し、彼らを捨てた、飼い主自身だと私は思います。

最後に、これからペットを飼おうという方にお願いです。

どうか一度立ち止まって、考えてみてください。老犬たちはなぜ、愛する家族のもとで天寿をまっとうすることなく捨てられなければならなかったのか──。

いまのあなたの年齢、家計、意識は、その子の生涯に責任を持ち、最期を看取れる状態にありますか?

捨てられた老犬たちの思いがあなたの心に届きますように。

児玉 小枝 フォトジャーナリスト、どうぶつ福祉ネットワーク代表

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こだま さえ / Sae Kodama

1970年、広島県生まれ。“人と動物との共生”をテーマに取材活動を続けているフォトジャーナリスト。どうぶつ福祉ネットワーク代表。言葉を持たない動物たちの代弁者としてメッセージを発信することをライフワークにしている。

著書に、『“いのち”のすくいかた』(集英社)、『どうぶつたちへのレクイエム』(日本出版社)、『ラスト・チャンス!』(WAVE出版)、『明るい老犬介護』(桜桃書房)など。

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