アメリカで活躍する「エンジェル投資家」の正体 イノベーションの促進のために日本にも必要
最後の原因は、制度である。まず、アメリカでは、エンジェル投資家になるために明確な条件がある。具体的には過去の2年間で個人年収20万ドル以上/夫婦の場合30万ドル以上、そして今後も同程度の収入を得る見込みがあること、あるいは100万ドル以上の純資産を有することである。
そして、近年、エンジェル投資家がもっと円滑に投資を行えるよう、クラウドファンディングに対する規制を緩和したり、もっと多くの投資家が未上場ベンチャーに投資できるようにするなど、法律が緩和されている。
また、冒頭で触れた「エンジェル投資家グループ」の存在も注目すべきだ。ACAの調査では、アメリカでは400以上のエンジェル投資家グループがあり、アメリカだけでなく世界中で活躍している。日本ではこの数字はわずかだろう。グループは定期的に起業家からの申請をレビューし、投資家の前でプレゼンしてもらう案件をピックアップする。
プレゼンの後、次のデューデリジェンス(投資先のリスクなどを精査すること)に進めたり、起業家にアドバイスを提供したり、投資家からの意見をまとめたりする。デューデリジェンスの段階では、グループだと、各分野の専門家・ビジネス経験者がたくさんいるので、効率的に投資の判断ができる。
なお、アメリカのエンジェル投資家として日米の投資事情に精通するTakashi Kiyoizumi(清泉貴志)氏は、「デューデリジェンスする際、起業家がcoachable(コーチングを受け入れる人)であることは投資判断の際に極めて重要」だと指摘する。起業家から見るとアクセスもしやすいし、専門家が集まるところでコメントをもらえ、メンターになってもらうには最適で最も効率的な場所といえる。
なお、グループ内のエンジェル投資家たちは、ライバルより「同志」の感覚なので、お互いのコネづくりと情報交換にもよい場所である。組織があるので投資案件を自ら見つけなくてもよいし、関心があるところに投資しメンターをするのも簡単である。最新の投資動向の講座や新しい投資家向けに、どのようにエンジェル投資家になるかの講義もあり、投資家自身の成長にもつながっている。エンジェル投資家不足の日本にとって参考になる。
これから日本はどうすべきなのか
イノベーションを促進するため、起業側も投資側も並行して成長しなければならない。起業を進めるには、スタートアップが最も苦しいシードステージの「死の谷」を埋めてくれるエンジェル投資家の育成は必要だ。しかし、現状の日本はアメリカに比べてはるかに遅れている。
エンジェル投資を促進するため、投資家へのさらなる税制優遇(例えば、キャピタルロスを通常所得と通算すること。アメリカでは可能だが、日本ではキャピタルゲインとしか通算できない)、エンジェル投資家グループの設立と交流の場の提供(例えば、技術に強いエンジェルと金融に強いエンジェルの情報交換ハブの場)などが急務であろう。
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