前編 大きく改正される相続税制

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子がいない夫婦は、妻が全部相続できない!?

「遺産分割」について考えてみましょう。
先ほどお話ししたように、相続が発生すると、亡くなられた方の財産は相続人共有の状態になります。誰がどのように受け取るかという合意があって、初めてその財産が次の世代に承継され、有効に活用されることになります。ですから、財産の多い・少ない、相続税が課税される・されないにかかわらず、「遺産分割」は大きなポイントといえます。

遺産分割については、準備が不十分だったばかりに円滑な財産承継できないケースがあります。
   例えば、子どもがいない夫婦の場合、亡くなった夫の財産はすべて妻が相続できると誤解されている方が多いようです。民法には、「法定相続」という考え方があって、相続人の範囲とその相続割合を定めています。それによると、子どもがいない夫婦の夫が亡くなり、夫の両親がすでに他界している場合、「妻」と「夫の兄弟」が相続人となります。このとき相続の割合は、妻4分の3、夫の兄弟4分の1です。
   双方が話し合った結果、妻に全財産を渡すという合意ができればよいのですが、夫の兄弟が相続したいと主張した場合、たとえ夫婦で築き上げた財産であってもその4分の1を相続する権利が認められています。
   とくに金融資産が少なく、主な財産が自宅の不動産しかない場合、分けるのが難しくなります。最悪の場合、自宅の売却を余儀なくされることもありえます。

こういった問題を解決する方法として最も有効なのが遺言書です。遺言は法定相続に優先します。子どもがいない夫婦のケースでは、「夫(あるいは妻)に全財産を相続させる」という内容の遺言書を、夫婦同時に作成しておけば、夫婦のどちらが先に亡くなっても、遺された方が全財産を相続することができます。
   残される家族のことを配慮しつつ、相続人の状況や実情に合わせた合理的な財産配分を実現することのできる遺言書は非常に有効な手段となります。

事前に保有財産や相続人を確認し、「どう遺産を分けるのか」を考え、遺言書を作成しておけば、相続がずいぶんスムーズになると思います。相続がスムーズにいくかどうかは、事前の準備にかかっていると言えるのです。

ちなみに、遺言書の内容について、基本的に私たちはご家族には他言しないようにとお話ししています。遺言書は、遺言者の単独の判断による最終意思の表明です。そのため、他人から影響を受けずに作成することが大切です。
   もちろん、「今のうちからきちんと伝えておきたい」「すでにみんな承知している」という理由で遺言内容をオープンにされる方もいらっしゃいます。ご家族の状況や、遺言者のお気持ちによって判断していただきたいと思います。

長沢 峰己 三井住友信託銀行 財務コンサルタント

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ながさわ みねき / Nagasawa Mineki

三井住友信託銀行主席財務コンサルタント。
1956年生まれ、富山県出身。1979年海運会社入社、1988年三井信託銀行入社後は、事業会社融資、個人資産運用業務、個人融資業務に携わる。2003年財務コンサルタントとして活動を始める。現在、遺言信託・遺産整理や特殊信託受託に係る審査業務を担当している。
趣味は、登山・音楽。

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