「厳格なしつけ主義」が日本の親子を不幸にする 服装や頭髪指導をやめた校長の信念

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では「従順さ」がしつけの最上位の目的として不適切だとしたら、何を目的にすればよいか。

私が子どもを叱るときにいつも意識しているのは、「優先順位」です。

たとえば、みなさんのご近所に一日中、お母さんの怒鳴り声が聞こえてくるご家庭はありませんか? 私がかつて住んでいた所でも、戸がすべて閉まっているのに、

「だから言ったでしょう!」「なんでやってないの!」「早くしなさい!」

といったお母さんの大声が連日外まで漏れてくる家庭がありました。おそらく子どもを叱るのが親の役目だと思っているのでしょう。学校でもそのような先生はたくさんいます。

しかし、先生が連日、細かなことで同じように叱ってしまうと、子どもは、本当は何が大事なのか区別がつかなくなります。

「宿題を忘れた」「テストの点数が低かった」「嘘をついた」「人に嫌がらせをした」「髪を金髪に染めた」......。

区別がつかないだけならまだいいのですが、叱ってばかりいると、子どもの中で親や先生に対する反発心が燃え上がるか、もしくは極端に大人の目を気にするようになるかのどちらかです。何もいいことはありません。

そこで、叱る基準・しつけの優先順位を決めていけば、叱る頻度が減り、大人も子どもも不要なストレスを抱えなくてすみます。子どもとの付き合い方もかわるでしょう。さらに「本当にダメなこと」がはっきりと子どもに伝わるようになるので、子育て自体が楽になるはずです。

どうやって優先順位を決めるか

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では、子どもに確実に伝えたい大事なメッセージとは何でしょう? どうやって優先順位をつければいいのでしょうか?

非常に難しい問題ですよね。そもそも子どもへのメッセージが、夫婦間で合意が取れていない家庭も多いかもしれません。でも、子どもが最優先なのであれば、そこは徹底的に考え、話し合う必要があると思うのです。その場しのぎの指導方針では子どもだって迷ってしまいます。

少なくとも、しつけの判断基準として「本に書いてあったから」「自分がそう育てられたから」「近所の家ではそうだから」といった、外の物差しを絶対的なものだと信じ込まないこと。参考にはなるでしょうが、基準とはその子の特性や反応をつぶさに観察しながら、徐々に決めるべきだと思います。

工藤 勇一 横浜創英中学・高等学校校長

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くどう ゆういち / Yuichi Kudo

横浜創英中学・高等学校校長。1960年山形県生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年から千代田区立麹町中学校長として宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止などの教育改革を実行。2020年より現職。教育再生実行会議委員、内閣府 規制改革推進会議専門委員、経済産業省 産業構造審議会臨時委員など、公職を歴任。著書多数。

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