サウジ攻撃、余波は原油価格急騰だけではない アラムコ上場は延期、遠のくサウジ経済改革

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焦点となっているのがフーシ派を支援するイランが今回の攻撃にどう関与したのかだ。今月下旬にはニューヨークで国連総会開催を控える中、攻撃は行われた。国連総会に合わせてアメリカのトランプ大統領とイランのロウハニ大統領の会談が模索されていた。

イランに対して強硬姿勢だったとされるジョン・ボルトン大統領補佐官が解任されたこともあり、アメリカとイランの関係改善へ何らかの動きがあるとの観測もあった。しかし、今回の攻撃によりいったんそうした機運は立ち消えになった。ロウハニ大統領はイランの関与を否定しているが、アメリカ側はイラン関与の可能性を示唆している。

日本貿易振興機構・アジア経済研究所の福田安志・上席主任調査研究員は「(攻撃によって)イラン革命防衛隊がアメリカとイランが関係を改善することを阻止しようとした可能性もある」と指摘する。

サウジアラムコの株式公開も当面延期に

一方、石油設備を攻撃されて威信を傷つけられたサウジ政府は国連などに対して現地調査を求める考えだ。同国政府は「攻撃にはイラン製兵器が使われた」と主張しており、イランへの反発が高まっている。

国内政治を主導するムハンマド・ビン・サルマーン皇太子(MBS)にとっても、フーシ派に関わる方策を誤れば、「皇太子の権力基盤が揺らぎかねない」(日本エネルギー経済研究所中東研究センターの保坂修司・副センター長)。2014年に国防大臣に就任したサルマーン皇太子にとって、「最初の大きな仕事がイエメンへの軍事介入だった」(同)からだ。

サウジ政府は公式にはアブカイクの復旧見通しなどについて明示していないが、一部報道によれば数カ月かかるとされる。そのため、予定されていたサウジアラムコの新規株式公開(IPO)も当面難しくなった。

サルマーン皇太子は2016年4月に策定した経済改革計画「ビジョン2030」でサウジ経済の石油依存型からの脱却を掲げ、そのためにアラムコのIPOによって得られた資金を活用するとしていた。今回の事件はサウジ経済の改革プランも大きく狂わせることになるかもしれない。

大塚 隆史 東洋経済 記者

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おおつか たかふみ / Takafumi Otsuka

広島出身。エネルギー系業界紙で九州の食と酒を堪能後、2018年1月に東洋経済新報社入社。石油企業や商社、外食業界などを担当。現在は会社四季報オンライン編集部に所属。エネルギー、「ビジネスと人権」の取材は継続して行っている。好きなお酒は田中六五、鍋島。

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