ビットコインはケインズの夢を叶えるか

「貨幣」から読み解く2014年の世界経済(下)

もちろん、ビットコインの場合、記号を貨幣として流通させるので、技術的にいくつかのハードルを乗り越えなければならない。一つはニセ金を防ぐことだが、それは暗号技術によって解決可能だ。もう一つは、貨幣が金属や紙といったモノの形をしているときには、一つの貨幣は一人の人間しか所有できないが、記号である場合には、その記号を相手に渡しても、渡した人も記号は覚えているので、二人が同時に所有してしまうという問題がある。その問題を解決するためには、決済のたびに記号自体を入れ替えなければならない。

この問題も、じつは私自身を含めて、すでに解決されていたのだが、ビットコインを考案した中本氏の方法は、数学的にじつに美しい形で処理されている。その美しさが、コンピュータ科学をやっている人の心を捉えたのだと思う。

ビットコインは貨幣なのだろうか?

では、ビットコインは貨幣なのだろうか? 私は、そう思っていない。なぜならば、貨幣が貨幣であるためには、それが多くの人に貨幣として受け入れられなければならないが、まだその段階に至っていないからだ。ビットコインを買う人の多くは、数学的に美しいおもちゃとしてか、投機の対象としてか、資金洗浄が目的である。そうであるうちは、ビットコインは貨幣ではない。ただ、現在の目新しさから知名度が上がり、「ビットコインは貨幣である」と思う人の数が臨界点を超えると、自己循環論法が働き、貨幣になる可能性もないわけではない。

だが、ここで説明しておかなければならないのは、貨幣の価値とは根本的に不安定だということだ。たとえば証券や株式、不動産や先物商品の価格は乱高下するが、「発行する企業体」や「土地自体」「実物商品」という裏付けがあるため、究極的には実体経済とつながり、それゆえにある程度の安定性をもっている。

ところが、お金はまったくモノとつながっていない。貨幣が貨幣としての価値をもつ根拠は、たんに「他の人がそれを貨幣として受け取ってくれる」という予想だけだ。その予想が揺らぎ、他の人がそれを貨幣として受け取ってくれないのではないかという不安を人びとが抱くと、人びとは貨幣をできるだけ早く手放すようになり、貨幣価値は暴落し、その不安は自己実現してしまう。貨幣が貨幣でなくなってしまうのである。

貨幣とはこのような本質的な不安定性を抱えている。したがって、自由放任主義者の主張に反して、その価値の安定性のために、中央銀行による管理を究極的に必要とすることになる。それは、中央銀行をもたないことを特徴とするビットコインが、本質的な矛盾を抱えていることを意味している。仮にビットコインを多くの人が受け入れ、貨幣として流通したとしても、それは「いつか破綻する運命」を必然的に背負い込んでいるのである。

ただ、ビットコインが一時的に成功し、それが破綻すれば世界経済に甚大な被害を及ぼすほど流通してしまうと、「大きすぎてつぶせない」ということから、各国が寄り集まって、それを管理する世界中央銀行をやむをえず設立するという逆説的な可能性も、夢物語としてはありうる。第二次世界大戦末期に、ケインズは「世界中央銀行」の創設と「バンコール」という基軸通貨を提唱した。その構想はアメリカの反対によってつぶされ、結局はドルを基軸通貨とするブレトンウッズ体制が戦後の世界経済を支配した。確率は1%もないが、万が一そうなったとき、ケインズの夢がやっと実現することになる。

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