東大卒プロポーカープレイヤーの勝負哲学

日本人初のタイトル保持者が戦いのすべてを語る

経済学で使われる「ナッシュ均衡」(プレイヤー全員が最適の戦略を選択し、これ以上戦略を変えるメリットがない状態)の理論に基づいて、「勝てる手が100回あればブラフは50回混ぜる」といったように、向こうの出方とは関係なく打つ手を決めていくのです。

具体的にいえば、弱いプレイヤー相手には、あえてこちらがナッシュ均衡から外れたプレイをし、相手により大きなミスをしてもらうことを狙ったりもしますが、強いプレイヤー相手にこれをやると、相手が正確に対応してくるので、ナッシュ均衡から外れたぶんだけ損失を出してしまうのです。

強いプレイヤーというのはゲームが始まって2時間もすればわかりますからね。基本的なプレイでミスしない。それが見えれば「この人は強い。ここから勝たなくてもいい」と戦略を立てます。いわばディフェンスのためのプレイですね。「ナッシュ均衡」的なプレイは、あくまで「均衡」だから、得にも損にもならないんです。

でも、勝負はもっと大人数でしているのだから(注:代表的なゲームの一つ「テキサス・ホールデム・ポーカー」は通常10人程度)、すごく強い人からは勝たずに他の人から勝てばいいという戦略になります。

また、不完全情報ゲームである以上、一定の割合でミスプレイは発生します。その結果、大幅な損失が出ることもある。ただ、それは利益のためにリスクは付きものなので、判断すべきは「リスクを取ることが割に合うかどうか」です。もし、そのリスクが割に合うものであり、資金管理がしっかりとできていれば、長期的には利益が出るのです。

実際にプロは、海外のカジノなどでは長期的に負けることはまずないので、多くのプロにとってポーカーはギャンブルではなく純然たる投資になっています。運も左右しますが、実力がかなりものをいう世界なんです。

だから、「今度マカオに行ったときにカジノに寄ろうと思うんですが、どうすれば勝てますか?」みたいに訊かれると呆然としてしまいます。「いや、ポーカーをやり込んで量をこなし、実力を付けるのが勝つ大前提だから……」と感じますので。

一睡もできなかった大会3日間

ポーカーはプレイヤー同士で戦うものであり、カジノ側の取り分は少ない。ラスベガスではとくにそうです。そんな意味でも、アメリカでは知的なスポーツとして捉えられ、「ポーカーをやる場があるカジノの格は高い」とされているんです。実際にカジノのいちばん奥の一等地で展開され、ポーカーの国際大会で勝つことはかなり名誉なことなんですね。とくにアメリカではポーカープレイヤーの知名度は高く、メジャーリーガーほどではないにしても、それに近い方向の、「憧れの存在」ではあります。有名なプレイヤーは町を歩いていたらサインを求められたり、というレベルですので。テレビでも、ゴールデンタイムでポーカーが放送されていて人気があるんです。テレビに出ているようなプロに直に会えて戦えてしまうのが、ラスベガスのカジノでもいちばん有名なホテル「ベラージオ」で、そうした雰囲気を肌で感じると、やはりカジノで行なわれているさまざまなゲームのなかでも華があるなぁと実感します。

国際大会で競技をする際も、ぼくは感情の起伏がそんなに激しくないんです。どんなプレイのときでも淡々と続けていきます。怒ったりということはほぼありませんよ。不運に対していちいち頭にきていたら、ポーカーをやるうえで損です。あるときには自分が多くを取ったり、あるときには他の人に取られたりというのは仕方がないことで、いちいち気にしませんね。

次ページいまはまだ「一軍の代打」
ビジネスの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 新型コロナ、長期戦の混沌
  • コロナ後を生き抜く
  • 最新の週刊東洋経済
  • 占いのオモテとウラ
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
脱・ストレス 不安加速社会<br>への4つの処方箋

コロナ禍で、人と会ったり飲み会をしたりといった従来のストレス解消法がしづらくなっています。そんな今だからこそ、「脳」「睡眠」「運動」「食事」の専門家が教えるコンディショニング術でストレスフリーな状態を目指しましょう。

  • 新刊
  • ランキング
東洋経済education×ICT