もちろん、でんぷんも食感に関係します。水を加えて熱すると糊化(こか)して、アミロースとアミロペクチンという2つの糖質の構成比によって食感がドロッとしたり、モチモチになったり。例えば、うどんはモチモチ感が必要なので、低アミロース系の小麦が使われます。
一方でタンパク質は、その水和物であるグルテンの量が麺の弾力性を決めます。今研究しているのは、グルテンの量や質をコントロールすることで麺の食感を自由自在に変えるというものです。手延べ麺は機械で作った麺に比べて歯応えがあるのですが、その理由もグルテンの構造を可視化することでわかっています。ポイントはpH(水素イオン濃度)。かん水、重曹などで塩基性にすると弾力が増し、格段に歯応えが増します。
パンケーキをおいしくする「コツ」
──もう1つ重要なのが脂質。
脂質は香りに効きます。小麦粉の独特な香りは不飽和脂肪酸が酸化した結果出るアルデヒド類のにおい。植物が作る代表的な不飽和脂肪酸がリノール酸とα-リノレン酸でそれぞれ酸化するとヘキサナール、ヘキセナールになる。麺によって香りが違うのはこの2つの割合の違いです。また、アルデヒド類は食感にも関わっています。製麺過程で油を塗るそうめんや五島うどんは時間が経つと食感がしっかりします。いわゆる古物(ひねもの)がよしとされるのはこれが理由です。
──材料の性質を知って調理するとおいしさが全然違ってくる。
例えば、パンケーキはグルテンが出ないようにするとおいしくなります。小麦粉をフライパンで炒めてグルテンを失活させると大きく膨らみます。こういうノウハウの原理は小麦の専門書に書いてありますが、小麦の専門家は積極的に広めたりはしません。
一方、料理家は原理がわからない。私の役割はこの間をつなぐことだと思っています。工学の目的は基礎理論の実用化です。どう調理すれば、麺がおいしくなるか、パンが大きく膨らむかというのは、工学の目的の具現化だと思っています。
──スパゲティと塩は驚きです。
うどんはコシを出すために製麺時に塩を加えますが、スパゲティに使うデュラム小麦はほかの小麦に比べてタンパク質が多く、塩は加えません。ゆでるときには塩を入れよといわれますが、実験によれば、巷間いわれる程度の塩なら入れなくても弾力は変わりません。
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