トヨタ自動車が狙う、「脱AV家電化」とは? クルマが示す、「技術で世界に勝つ」ための条件(1)
新興勢力に屈しない『無限に伸ばせる技術』
しかし気になるのは、他国によるキャッチアップという点だろう。かつての電機メーカーがそうであったように、技術が頭打ちになれば、あとはコスト競争があるだけだ。
では、自動車はどうなのか。電気自動車を支える電池や熱伝導材料は、ガソリン車と同じような「走行距離」や「快適さ」をかなえるにはまだほど遠い。また、技術的にも伸びしろがある。私は、この「伸びしろ」こそが、大きなチャンスだと見ている。
数多くのニッチ市場でトップシェアを持ち高い収益率を誇る、日東電工でCTO(最高技術責任者)の表利彦氏も、企業が生き残るために必要なスキルとは、「顧客価値を絶対的に高める、圧倒的に優れた『無限規格品』ともいえる材料を開発すること」と語っている。このように、開発でリードすればするほど価値が高まる強い技術があれば、日本の自動車メーカーが世界で勝ち抜くことは、決して不可能ではない。
それでも、「新興国企業も同じことをすれば、結局は追いつけるのでは?」という疑問が上がるだろう。だが、実は「無限規格」の材料開発は、技術的にも資金的にもそう簡単なものではない。それは、炭素繊維の事業構造を見れば実にわかりやすい。
炭素繊維は東レ・帝人・三菱レイヨンの3社が世界シェアの7割を占める。地道な改良を重ね、現在はナノ(10億分の1)レベルでも欠陥のないモノが安定的に製造できるまでになっていて、開発当初と比べ強度も3倍にも向上している。しかも生産技術は完全にブラックボックス化されているため、新興国は手も足も出せず、参入しようとする動きすら見られないのだ。
差別化こそ、生き残りの鍵
自動車メーカーでは、新卒採用はもちろん中途採用においても、材料分野の技術者や研究者が欠かせないという。強化するのは人材登用だけではなく、外部技術の登用も同様だ。たとえば、2013年のトヨタの研究公募でも、材料分野は重要なテーマを占めている。
こうした、先端的な研究技術を取り込むことで開発期間を短縮する「オープン・イノベーション」と呼ばれる手法は非常に有効なのだが、これを成功させるには、「外部の技術の優劣を見極める目利き力」と「共同開発を進めるうえでの、研究者の力量」が不可欠だ。自動車メーカー各社の特許件数の差が示すように、これまで社内に材料開発の能力を蓄積してきた日本のメーカーの方が、外部の良い技術を発掘し、育てる力を持っているのは明白だ。
もし圧倒的な差別化が、将来のクルマの走行性能や快適性を左右する、電池や熱伝導材料の分野にも再現できたら?AV家電メーカーがたどった道とは異なる未来が開けているように、私は思う。
しかし、「無限規格」の材料での差別化が難しい製品の場合はどうすればよいだろう? 次回のコラムでは、「すりあわせ力」を活かした、別の勝ち方について見ていきたい。
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