トヨタ自動車が狙う、「脱AV家電化」とは? クルマが示す、「技術で世界に勝つ」ための条件(1)
しかし、カーナビ発売から数カ月後には、松下通信工業(現パナソニックAIS社)とトヨタが共同モデルを販売。カーナビは瞬く間に市場に広がったのである。現在、カカクコムでの売れ筋は平均価格5万円以下だ。発売当初から比べれば実に20分の1にまで価格が下落している。
これとよく似た動きが、すでにPCSにも見られる。前出の「アイサイト」がまさにそうだ。スバルはアイサイトでPCSの市場を席巻した。そして今、衝突回避速度を時速30キロメートルから50キロメートルまで引き上げた次世代モデルで他社との差別化を図ろうとしている。だが、トヨタが時速40~60キロメートルまでカバーできるPCSを発表。他社の追随は必至だ。PCS自体の性能に差がなくなってきた今、スバルの逃げ切りは難しいだろう。
もちろん、PCSの普及が今後さらに進めばユーザーにとってはありがたい。だが、メーカーにとっては、価格に転嫁できなければ、利益を圧迫していくばかり。まさに、PCSも、カーナビと同じ道をたどってはいないだろうか。
ニッポンの自動車メーカーが生き残る「秘策」
技術で先行しても、短期間で追いつかれ、コスト競争に持ち込まれて経営が困窮する… まるでどこかで聞いたような話である。そう、これはまさに日本のAV家電メーカーがこれまでさんざん苦しんできた事業構造そのものだ。いや、実際には、カーナビの価格下落率の方が液晶テレビより著しいのだから、それ以上かもしれない。カーナビをはじめPCSなどのカーエレクトロニクスが、まさにAV家電のように一般化することでシェアを拡大していけば、クルマ自体もまた、新興国に苦戦を強いられることになってしまう。
だが実は、明るい兆しも見えている。PCSなどの熾烈な競争の裏で、将来のクルマの性能を左右し、かつ、新興国が追いつきにくい技術の開発が、トヨタをはじめとした自動車メーカー各社で着実に進んでいるからだ。
走行性能に大きく関わる電池、エネルギー効率を上げ快適な車内環境を作ってくれる熱伝導材料、そして排ガス浄化システム・・。これらがまさにそうした例で、技術レベルも高い。
なぜ技術が高い、といえるのか。21世紀以降に出願された、上記すべてに必要となる無機材料の特許数を見れば、一目瞭然だ(トヨタで約1000件、日産とホンダが各600件に対し、米ゼネラルモーターズでは100件、現代自動車は30件、フォルクスワーゲンにいたっては一ケタなのである)。
この数字が物語るように、ニッポンの自動車メーカーの技術力は、実は海外勢を圧倒しているだけでなく、以前から電池材料の開発に取り組んでいるパナソニックや東芝などの国内企業と比べても、そん色ないレベルにまで達しているのだ。
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