PC大手のASUSがスマホをあきらめないわけ 高技術品を投入、赤字のスマホ撤退説を一蹴

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――2019年の第1四半期(2019年1~3月期)は売上高が前年同期比7%減少。スマホ事業では約20億円の赤字を計上しており、昨年はスマホ事業から撤退するとの報道も出ました。

あらゆる議論を社内でしてきたが、すばらしい電子機器を作り上げるという点でスマホを決してあきらめてはいけないと判断した。

今のところスマホ事業については回復してきており、好調さを取り戻し始めている。ZenFone6はもちろん、最近わが社で最も成功しているゲーミングスマホ「ROGフォン」は、ゲーミングスマホ市場の7割以上のシェアを獲得している。世界最大のゲーム企業となった中国のテンセントとも協業し、ROGフォンの最新機種を中国大陸で販売したときには、予約だけでも200万台売れた。孫子の兵法が言うように、自分たちが優勢であるところでこそ勝負できる。

孫子の兵法を引き合いに、「自分たちが優勢であるところでこそ勝負できる」と語る施会長(撮影:今井康一)

ASUSは長期的な視点で製品開発を考えており、パソコン産業が発展していくなかでいずれ電話はコンピュータになっていき、モバイル機器が重要になっていくことは予測ができていた。スマホ開発の準備を事前に怠らなかったからこそ、ゲーミングスマホのように技術水準が高い製品を出せていると思う。

また、5Gの時代になってもスマホが重要であり続けるという認識に変わりはない。例えば、パーソナルコンピュータの役割はもはやPCではなくスマホが持っている。モノとインターネットがつながるIoTの社会ではスマホがさらに重要なデバイスとなるはずだ。ASUSとしても5Gをどう取り込むかが焦点で、展開しているスマホシリーズROGやZenfoneが重要になる。

米中対立の悪い側面ばかり見る必要はない

――ASUSは台湾企業です。米中対立の影響は出ていないのですか。

立つべき視点によって見方は分かれる。本当に米中対立が深刻化したとき、おそらく台湾のような条件をもっている国はほかにないだろう。中国人はASUSのことを、ファーウェイのような自国企業と思わないだろう。が、それでも中国からすれば「台湾は同胞だ」ともいう。

台湾社会は多様性にあふれている。中国の影響はもちろん、オランダや日本の植民統治の影響を受けてきた。アメリカの影響も強い。政治的に米中摩擦は明らかに好ましくないが、台湾は文化的に米中双方と付き合えるポテンシャルをもっている。米中の対立の狭間にあることが必ずしも欠点とはならない。悪い側面ばかり見る必要はない。

――今後の電子機器産業はどのように発展していくと思われますか。

やはりAIはひとつの焦点だ。過去の産業革命は生産手段や交通手段の選択肢が増えるなど「身体の拡張」をもたらしたが、今回のITの発展は「知能の拡張」をもたらすはずだ。

AIによって既存のスマホやパソコンはより多くの機能を搭載できるようになり、発展の幅が広がるだろう。今のスマホにはカメラやマイクなどの「目」や「耳」があるが、スマホ自身がそれらを活用しているかといえば、そうではない。スマホを生き物に見立てれば自らが持っている機能を利活用できていない、ある意味「愚かな」状態だ。AIを活用して既存のデバイスをいかに賢くしてユーザーインターフェース(UI)を高められるが、電子機器産業の方向性のひとつになるだろう。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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