ドンキ、営業経験がない「異色社長」誕生のわけ コンサル出身者が国内外での拡大戦略の要に

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今回の交代劇の裏には、今年70歳となった安田創業会長の目が行き届くうちに、「カリスマ不在でも機能する組織体制の構築を急ぎたい」との意図もあったようだ。

パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの安田隆夫・創業会長(写真は2015年3月のもの、撮影:梅谷秀司)

「苦楽をともにしてきた最古参社員」との安田創業会長の言葉が示すとおり、大原氏はドンキ1号店誕生の間もない時期から安田創業会長の経営手腕を近くで見てきた、社内でほぼ唯一の人物だ。「会社全体を見通せている人は、今や大原さん以外いない」(ドンキ関係者)との声も漏れるほど、大原氏はドンキの各事業に精通し、安田会長の経営理念も深く理解していた。

「独自の経営スタイル」が薄れる懸念も

その反面、重要案件の決定においては安田創業会長や大原氏のリーダーシップに依存する場面も多かった。大原氏に続く現場出身の経営幹部が育成しきれていないことは、大きな課題でもあった。パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは吉田氏の就任以降、社長兼CEOの座を4年の任期制とする方針だ。チーム経営への移行を進め、次世代の社長候補となりうる人材を育て上げる姿勢を明確にする。

大原氏は「4人の常務がドンキらしい営業隊を守っていく。僕たちは“普通の会社”には絶対になれない」と強調。吉田氏も「安田創業会長が作り上げた(権限委譲などドンキの経営理念をまとめた)源流経営に徹する」と、力を込める。

だが、営業出身の強力なリーダーシップが失われれば、個店主義や実力主義などドンキの競争力の源であった「独自の経営スタイル」が薄れる懸念もある。子会社となったユニーの経営立て直しや、ドンキとユニーのダブルネーム店舗の展開も緒に就いたばかり。好調が続いていたドンキの既存店売り上げも、昨年末から今年初めにかけて前年を下回る月があり、人事改編や現場社員の評価基準の見直しでテコ入れを図った矢先だ。

30期連続で増収増益を達成しているパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスだが、取り組むべき課題は山積している。ドンキらしさを貫いて成長を維持しながら、カリスマに依存しない会社へと脱皮できるか。新社長となる吉田氏に課せられた任務は大きい。

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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