周:今の制度は専業主婦を優遇する形になっていて、そこに安住して、抜け出せなくなるインセンティブを作ってしまう側面があります。税・社会保障は、税控除される上限額を引き上げることではなく、働くことに中立的な制度にしていく必要があります。
中野:色々な事情で働けない時期がある人もいますが、そのセーフティネットは社会にあるべきだし、一度選ぶとそこから抜け出しにくくなる構造は見直した方がいいと感じます。妻が専業主婦または低収入パートで固定化すると、夫の方もハードな働き方から逃げられなくなってしまう。
周:日本の社会制度の完成度が高すぎたことが、脱「専業主婦」を難しくさせている側面があります。配偶者控除や第3号被保険者制度は 専業主婦世帯の負担減を目的に作られたものですが、それが意図せずに女性を無業または低収入のパート就業に止まらせる結果につながっています。
また、女性保護のために必要とされる高い離婚障壁も、日本女性に「専業主婦」を選びやすくさせています。中国の男性は共働きが前提で「お前も働け」と言うので、中国人の学生に話すと「日本女性が羨ましい」という声も聞こえてきます。
中国人の女性に「辞める」という選択肢はほぼない
中野:日本を除くアジア諸国は近代化によって専業主婦化が進む前に脱主婦化の波が来て、欧米や日本のように専業主婦の黄金期がなかったという指摘が社会学でなされています。そういう国から見ると、日本には専業主婦という選択肢があっていいな、というふうにも見えますね。
中国は子育てに祖父母の力を借りるケースも多いし、男性の育児・家事割合も高いですよね。どのようにして共働きが当たり前というふうにシフトしたのでしょうか。
周:中華人民共和国になる前は性別分業の時代もありましたが、それ以降は「婦人は天の半分を支えるものだ」という形で、男性も女性も働くべきというスローガンが打ち出されました。男性だけで長い間家計を支えることはできないという暗黙の了解もありますし、女性の収入もお小遣い程度ではなく世帯収入の重要な構成要素になっています。
もちろん中国人女性にも両立が難しいなと思うタイミングはありますが、じゃあ辞める、という選択肢はほとんど存在しないですね。出世を諦めて両立しやすい部署や会社への異動というオプションはあっても、完全に辞めるという逃げ道は用意されていません。
中野:日本の場合、国の社会保障は薄いけれども、夫が企業から家族賃金や手当をもらって、それで妻の内助の功に報いて家族で解決してねというモデルだったわけですよね。でもその稼ぎ主の男性側の状況が変わっています。 日本でも男性の片働きは男性に長時間労働による過労や転勤などの負担が大きいし、男性の正社員比率減少や終身雇用の崩壊など、社会構造的にも無理がきています。
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