これから金を買っても大きく儲かるのか? 金価格が今後も値上がりするための条件とは

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ただし、ここで注意が必要なのは、金利の低下が単純に金価格の上昇につながるというわけではないという点である。金価格を見るうえで注視すべきは、アメリカの実質金利である。

この考え方は、筆者が以前から提唱しているものであり、実際に機能してきた考え方である。実質金利は名目金利から期待リターンを引いたものである。

だが、名目金利が低下しても、インフレ率が低下すれば、実質金利は低下しない。いまは原油価格が上がらなくなっており、インフレ率も低迷している。実質金利は上がりづらくなっているのが現状だ。筆者が実質金利をもとに計算する金価格の理論値は、7月末時点で1400ドル程度である。実際に7月中に金価格は1400ドル台に上昇したわけだが、これはまさに理論通りの展開だったわけである。

昨今の金価格が1500ドル台を付けた最大かつ実質的な理由は、実質金利の低下であることは明白である。しかし、リスクオフによる安全資産として、金の買いが入ったことも事実であろう。その結果、1500ドル台という水準にまで上げたと説明できる。

金価格が今後も上昇し続けるとは限らない

しかし、「このままリスクオフの状態が続けば、金価格はさらに上がり続ける」と考えるのは難しいだろう。金価格の上昇には、やはり実質金利の低下が不可欠である。例えば、金価格は2008年の金融危機の前の3月には1030ドルまで上昇していた。その直前の1月末には、実質金利はマイナス0.70%ポイントにまで低下している。

このように、当時の金価格の上昇は、実質金利の低下に裏付けられていたことになる。その後、金価格は調整したものの、実質金利がマイナス1.64%にまで低下した同年7月には、金価格は900ドル台前半の高値を維持していた。この当時の米CPI(消費者物価)は前年同月比5.6%だった。

これは、WTI原油価格が147ドルまで上昇したことが背景にある。当時の米10年債利回りはおおむね4%だったが、インフレ率がそれを上回ったことから、実質金利がマイナスになっていたわけである。つまり、コストプッシュ的なインフレが実質金利を押し下げ、結果的に金価格を押し上げていたわけである。

しかし、その後、リーマンショックが起こり、金は安全資産として買われてもよかったが、実際には大きく値を下げた。前述のように、2008年10月には一時680ドルまで下落し、高値からはなんと約40%も下げたわけである。金融危機の最中に安全資産である金が買われずに、むしろ売られた背景には、実は実質金利の上昇がある。

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