名門ラジオ局「エフエム東京」が不正会計のなぜ 鳴り物入りの新事業「i-dio」不振を隠ぺい

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その後、エフエム東京の関連会社が基地局開設や放送事業に必要な認可を総務省から取得し、TS社は番組企画や制作を担う形で2016年3月から放送を開始。エフエム東京がi-dio事業に投じた金額は債務保証なども含めて約100億円にのぼる。

売上高185億円、総資産400億円弱(いずれも2018年3月期)のエフエム東京にとって社運を賭けたi-dio事業だが、TS社の赤字は徐々に膨らんでいった。2018年3月期には債務超過に転落、2019年3月期にその額は4.5億円に拡大した。

動機は事業見直しと経営責任の回避

報告書によれば、i-dio事業の経営悪化が取締役や株主などに明らかになると、撤退を含めたi-dio事業の抜本的な見直しと経営陣の責任が問われかねないため、これを回避する動機があったようだ。

不正会計に揺れるエフエム東京(記者撮影)

i-dio事業はどの程度厳しい状況なのか。黒坂社長は「正直、状況が厳しいという現実はある」と述べるにとどまった。ただ、i-dioを放送波で利用するためには専用端末が必要で、インターネットコンテンツが台頭する中、専用端末の普及は進んでいないとみられる。

i-dioを生かした防災情報配信システムが自治体に導入されつつあり、総務省から免許を付与されている立場で、i-dio事業から撤退するわけにはいかない。事業の今後について、黒坂社長は「複数の協業先候補と交渉を進め、パートナーとして事業の一部を担っていただくレベルではなく、(事実上)事業そのものの営業権を担っていただく」形で検討していくと話す。

目下の課題は発表を延期している2019年3月期決算の公表で、9月末を目指すという。エフエム東京は非上場会社だが、冒頭の黒坂社長の発言通り、公共の電波を用いて事業を行っている放送局が決算を公表できていない事態は憂慮すべきだ。

「i-dio」という新しい挑戦で「ラジオの未来」を作ろうとしたが、その姿勢が裏目に出てしまったエフエム東京。調査報告書が「閉鎖的かつ風通しの悪い組織風土が醸成されたのは、(前会長の)冨木田(道臣)氏の代表取締役としての在任期間が長いこと」「(冨木田氏に)権限が集中し、(中略)経営陣の意向に対して、異を唱えることが困難な状況になっていたことも(不正会計の)重要な要因の一つ」と指摘するように、一連の不正会計を主導した冨木田氏らの「罪」は大きい。

旧経営陣に代わって6月に社長に就任した黒坂社長ら新経営陣がどこまで組織改革を進められるか。その手腕が問われている。

森田 宗一郎 東洋経済 記者

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もりた そういちろう / Soichiro Morita

2018年4月、東洋経済新報社入社。ITや広告・マーケティング、アニメ・出版業界を担当。過去の担当特集は「サイバーエージェント ポスト藤田時代の茨道」「マイクロソフト AI革命の深層」「CCC 平成のエンタメ王が陥った窮地」「アニメ 熱狂のカラクリ」「氾濫するPR」など。

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