真夏の政争劇「埼玉県知事選」の奇々怪々 与野党一騎打ちでも盛り上がり欠く展開に

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一方、退任表明した上田氏が、10月の参院埼玉補選への出馬が確実視されていることも事態を複雑にしている。上田氏が後継者とする大野氏だが、同氏が参院選公示前に議員辞職していれば、参院埼玉選挙区の改選議席は4から5に増えていた。その場合、5番目の当選者は大野氏の残りの任期を引き継ぐため3年後の次期参院選で改選となる。

今回の参院選では、埼玉選挙区の次点(5番目)は国民民主の公認候補で、結果的に大野氏と入れ替わることができていたわけだ。

しかし、大野氏は知事選出馬表明の段階から「参院議員の職務は全うする」として、8月1日召集の臨時国会冒頭に議員辞職の手続きをとった。その結果、毎年4月と10月に実施される衆参統一補選の1つとして10月の補選実施が決まった。

立憲民主党の枝野幸男代表は埼玉県選出で、今回知事選での主要野党の取りまとめ役でもあるが、枝野氏周辺は上田氏の正式退任表明の前から「大野氏はぎりぎりに辞職し、補選には上田氏が野党統一候補として出馬する」と予言していた。

「埼玉県民には…!投票に行かせておけ!!」

2022年7月に予定される次期参院選での埼玉選挙区は定数4だが、改選となるのは自民、公明の現職と10月の補選で当選する3人で、もう1議席を各党が争うことになる。ただ、自民は公明との選挙協力もあって、2人擁立には慎重で、補選では「あえて勝ちにはいかない」との見方が多い。新たに1人当選させれば、次期参院選で公認争いが起きるからだ。しかも、自民の改選組は参院議員会長になったばかりの関口昌一氏だ。

だからこそ、野党陣営は「上田氏が統一候補で出れば圧倒的に有利」と読む。上田氏は無所属での出馬が前提となるが、当選すれば立憲か国民への入党が見込まれる。こうした背景も、知事選の舞台裏での複雑怪奇な動きにつながっているとの見方が多い。

そもそも、埼玉県知事選は投票率が低いことで知られる。過去3回とも30%に届かず、2011年の24・89%は全国の知事選でワースト記録だ。このため、県選挙管理委員は今回、投票率アップを狙って「埼玉県民には…!投票に行かせておけ!!」を標語とする啓発ポスターを作製した。標語を叫んでいるのは今年映画が大ヒットした漫画『翔(と)んで埼玉』のキャラクターで、「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」をもじったものだ。

大接戦といわれる選挙戦だが、国政選挙の基礎票から見れば自公が推す青島氏が有利だ。立憲幹部も「普通にやれば青島氏の勝ち」と肩をすくめる。大野氏勝利には多くの無党派層の掘り起しがカギで、そのためには投票率アップが必要だ。しかし、与野党の政治的思惑が交錯する現状では、選管の奇抜なアイデアも「空振りに終わる」(地元選挙関係者)との見方も広がっている。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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