吉本「専属エージェント契約」導入に抱く違和感 加藤浩次も「吉本以外の会社」との契約を示唆

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吉本興業は加藤が携わる数あるうちのエージェントの1つにすぎず、加藤自身はマネジメントの権限をそこに縛られているわけではない、ということになるからだ。これは、タレントが特定の事務所に「所属」している、という従来の形とは異なることは明らかである。

実際、加藤自身も、8月10日に放送された「極楽とんぼ オレたちちょこっとやってまーす!」(MBSラジオ)の中で「残留」と報じられることに対する違和感を表明していた。確かに吉本との関係は続くのだが、それ以外のところとも新たに契約を結んで自由に仕事をしていくつもりだと語った。加藤としてはその状態はもはや「残留」とは言えない、ということなのだろう。

タレントと契約書すら交わさないという方針だった吉本興業が、契約書を交わすことを宣言し、さらには新たな契約形態まで認めたというのは、一見すると大きな進歩であるようにも思える。だが、この点についても個人的には疑問を持っている。

なぜなら、そのような「専属マネジメント契約」以外の形で契約をすること自体は、芸能界でもさほど珍しいことではないと思うからだ。現状でも、タレント業以外に本業を持っている文化人タレントの多くは、事務所に所属しているものの、自身の仕事のすべてを事務所を通して行う、という契約はしていないはずだ。

例えば、弁護士タレントが芸能事務所に所属しているとしよう。その人はタレントとしてテレビやラジオに出る傍ら、弁護士としての業務は今まで通りの形で続けているだろう。ほとんどの場合、そこに事務所は介在していないはずだ。加藤が出演していた「スッキリ!」でも、エッセイストの犬山紙子が自身は芸能事務所とそういう形の契約をしていると語っていた。

芸能界が「変わる」のはこれからだ

吉本興業にもこのような文化人タレントが多数在籍している。どのような契約になっているか本当のところはわからないが、おそらくその大半が専属マネジメント契約ではなく、専属エージェント契約に近い自由度の高い形の契約を結んでいると思われる。その意味では「吉本興業が専属エージェント契約を新たに導入した」というのも、どこまで正確な表現なのか定かではないのである。

加藤は、残留したとも退社したとも言いがたい新たな形の契約で活動を続けることになった。おそらく、現状のレギュラー番組などの仕事は当面はそのまま続くだろうが、新規の仕事がどういう形で行われるかはわからない。ただ、前述のとおり、専属マネジメント契約以外の契約自体は珍しいものではないため、このことだけでただちに吉本興業や芸能事務所のあり方に大きな変化があるかと言われたら、そういうことはないだろうと考えるのが自然だ。

この一連の騒動がもたらした唯一の意義は、芸能事務所とタレントとの関係性について人々が改めて考える機会ができた、ということだ。業界全体で何かが変わることがあるとすれば、こういった出来事一つひとつの積み重ねで地道に変わっていくしかないのだろう。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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