日本は北方領土問題を絶望的にわかっていない 丸山バッシングに見る日本言論界の残念さ

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では、日本はどうしたらいいかと言うと、日本は直ちに現在の交渉を中止し、「北方領土は4島ともに、日本の固有の領土であり、その所属は交渉の対象ではない」という本来の姿勢に戻るべきである。仮に丸山発言が日露交渉の頓挫に貢献するのであれば(一議員の発言がそこまでの影響力を持つことはありえないが)、それはむしろ結果として日本の国益にかない、歓迎されるべきものなのである。

3点の中で最もおかしいのが、「ロシアの機嫌が損なわれる」という批判だ。そもそも、北方領土問題はなぜ「問題」なのか。それは、ロシアが74年も北方領土を返さずに不法占領しているからである。ロシアが北方領土を占領しなければ、この問題は存在しない。またロシアが北方領土を返せば、この問題は自然と解決する。

なぜロシアに謝罪する必要があるのか

ロシアが悪意で日本の領土をずっと返していないからこそ、この問題も連綿と続いているのだ。つまり、北方領土問題ではロシアは100%悪く、日本は100%の被害者である。だから、日本国内で北方領土問題について議論する際、ロシアに一切配慮する必要はない。「ロシアが怒るかもしれない」という理由で丸山議員をバッシングすることは、「ロシアにも義があるかもしれない」という誤ったメッセージを世界に送るおそれがあるのだ。

以上の3点を冷静に考えれば、日本のメディアや政界の丸山発言に対する反応が、いかに異常かがわかるだろう。政界では自民党から共産党まで丸山議員を批判した。最もひどかったのは、丸山議員はそれまで所属していた「日本維新の会」の幹部が、ロシア大使館へ謝罪しに行ったことである。

ロシアへの謝罪は本当に言語道断、許すまじき暴挙である。日本の領土を不法占領して返さないのはロシアなのに、そのロシアに対して日本人が謝るとはどういうことか。自国の領土を不法占領している国に対して謝ることは、独立国家の国政政党の振る舞いではない。それはいわば、植民地支配を受けている国の現地人の代表が、宗主国の総督府へ謝りに行ったようなものである。維新の会がその後、日本の代表的な親露利権屋を参議院選挙に擁立し、当選させたことを考えれば、この行いは理にかなっていると言えるのだが……。

日本人は外国に配慮する前に、まずは自国の立場をしっかりと認識し、日本の国益とは何か、ということを意識しなければならない。それは自国の領土を占領している国に関することであればなおさらである。

丸山議員は間違った発言をしたのだが、現状に疑問を持っているという姿勢自体は正しい。彼がこれからよく勉強して、日本の国益のことを考えながら、日本が抱えているさまざまな問題の是正に取り組むことができれば、今回の間違った発言は十分許していいレベルではないだろうか。N国党に入党して、再出発できるのかどうか。この新しい流れに注目したい。

グレンコ・アンドリー 国際政治学者、日本研究者

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Andrii Gurenko

1987年、ウクライナ・キエフ生まれ。2010年から2011年まで早稲田大学に語学留学。同年、日本語能力検定試験1級合格。2012年キエフ国立大学日本語専攻卒業。2013年、京都大学へ留学。2019年3月、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程指導認定退学。アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門優秀賞(2016年)。ウクライナ情勢、世界情勢について講演・執筆活動を行っている。著書に『プーチン幻想』(PHP新書)、『ウクライナ人だから気づいた日本の危機』(育鵬社)。

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