「要求案」決定でトヨタ労組が異例の会見 注目が集まる5年ぶりベア復活の行方

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豊田市内のホテルで会見を行ったトヨタ労組。中央が鶴岡光行執行委員長

トヨタ自動車労働組合が1月30日の評議会で今春闘の要求案を決めた。組合員平均の賃上げ要求は1万3130円。その内訳は定昇分7300円、改善分(ベースアップ)4000円となる。一時金は年間で6.8カ月。今回の賃金要求が満額回答ならば244万4940円となる。

同日、豊田市内の名鉄トヨタホテルで会見した鶴岡光行執行委員長は、「デフレを脱却し経済の好循環を実現できるかどうかの岐路に立っている」と強調した。

実は、「要求案」の決定段階でトヨタ労組が会見を開くのは異例だ。例年、2月の評議会での採決・決定を経て、正式な「要求」となった時点で会見を開いてきた。それだけに、鶴岡委員長も「これで納得して満場一致で可決してもらえるかはまだ分からない。提案したばかりで(組合員の)反応はこれから」と口ぶりは慎重だ。

ベア要求、09年4000円と14年4000円の違い

例年よりも早い段階で会見をしたのは、今春闘でトヨタの労使交渉が例年以上に注目されているからだ。

トヨタの豊田章男社長。「業績が上がれば報酬の形で従業員に還元するのは経営者の責務」と繰り返し発言(撮影:梅谷秀司)

トヨタ労組幹部も、「われわれが話せる一番早いタイミングで会見を行った。記憶にある限り(要求案の段階の会見は)初めて」と話す。2月6日に評議会で採決後、2月12日に会社に要求を申し入れる。会社側の回答は3月12日に予定されている。

デフレ脱却を目指す政府がハッパをかけていることもあり、明らかに賃上げムードは高まっているが、愛甲和弘書記長は「厳しい環境は続くというのが共通認識。過去(のベア)は1000円。一時金も前年よりかなりアップする。相当厳しい」と語った。

トヨタ労組がベアを勝ち取ったのは2008年の春闘が最後だ。その時、1500円の要求に対して妥結は1000円だった。その後08年9月にリーマンショックが起きた。2009年の春闘で4000円のベアを要求したが、当然、業績が急悪化する中でベアが実現するはずもなかった。

しかし、当時とうって変わってトヨタの業績は絶好調で、リーマン前の最高益を更新する勢いだ。2009年と同じ「4000円」のベア要求でも、取り巻く環境は大きく変わっている。

鶴岡執行委員長は、「リーダーユニオンとして注目を浴びることはある。ただ、賃金やベアに注目されがちだが、それぞれの単組で賃金制度の課題は多い。改善分(ベア)に焦点を当てて、出した出さないとなるのはよくない」と述べた。ベア一点集中のムードを牽制したいトヨタ労組の思いとは裏腹に、5年ぶりのベア復活の行方にスポットライトが当たっている。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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