年金暮らしで「毎月5万円赤字」の厳しい現実 高齢夫婦無職世帯は本当に2000万円不足する

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高齢夫婦無職世帯の赤字幅は、今後も増えていくでしょう。年金財政は破綻しませんが、徐々に年金の受取額が減額されていきます。

高齢夫婦無職世帯は実収入の過半を年金に頼っているため、実収入と実支出のギャップは広がっていかざるをえません。ある程度の生活レベルを維持しようとするならば、そのギャップを埋めるために資産形成を行う必要があるでしょう。

ただ、今回の報告書で独り歩きした感のある「2000万円」という数字には、あまりとらわれなくてもよいと思います。

今の60代、70代が金融資産をどれくらい持っているかご存じでしょうか。金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、金融資産保有額の中央値は60歳代で1000万円、70歳代だと700万円です。

一方で、金融資産をまったく保有していない人の比率は60歳代で22%、70歳代で28.6%もいますが、それでも生活していらっしゃいます。なので、2000万円の資産がなければ生きていけないというものではなく、現時点で保有している金融資産に合わせた生活を心がければよいのです。

30代・40代は家計を筋肉質にしてから投資せよ

30代、40代で、これから資産を形成していく人たちには、自分たちの将来の生活をイメージしたうえで、しっかり資産形成のプランを立てることをおすすめします。そのときに重視したいのは、キャッシュフローです。

最近は「将来のために投資をしましょう」という点ばかりが強調されますが、家計のキャッシュフローを満足に確保できない状態で投資に足を踏み入れるのは危険です。投資を始める前に、まずは月々の収支を把握し、総収入と総支出の差額がプラスを維持できるように努めてください。投資力を磨くことも大事ですが、その前に元本を貯める力を付けましょう。これは資産形成の基本中の基本です。

個人の収支環境はこの20年で大きく様変わりしました。収入が右肩上がりだった時代には、生活レベルを引き上げさえしなければ、黙っていてもお金が貯まりました。しかし、現在では収入が横ばいなのに教育費や食費、税金などは増えているため、貯蓄を増やすのに必要なキャッシュフローを確保するのが困難です。

だからこそ、家計のPDCAをきちんと回すことが肝心です。きちんと毎月の予算を立て(P)、消費活動を行い(D)、家計簿などを用いて無駄遣いがないかどうかチェックし(C)、必要な部分は改善していく(A)。このサイクルを回しながら暮らせば、家計は筋肉質になっていきます。

改善する際のポイントは、住宅ローンや家賃などの住居費、通信費、保険料、教育費、自動車関連費などの固定費の見直しです。会社員の場合、収入が急に増えることはありませんが、固定費を把握して、支出を見直せば、キャッシュフローは確保できるはずです。家計の下地をつくり、余裕資金が生まれたら、そこで初めて運用に資金を回すようにしてください。

鈴木 雅光 JOYnt 代表、金融ジャーナリスト

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すずき・まさみつ / Masamitsu Suzuki

1989年岡三証券入社後、公社債新聞社に転じ、投信業界を中心に取材。2004年独立。出版プロデュースやコンテンツ制作に関わる。著書に『投資信託の不都合な真実』、『「金利」がわかると経済の動きが読めてくる!』等。

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