対イラン、日本は自衛隊派遣「要請」を断れない イラン叩きはトランプ再選に不可欠な要素
歯車は進み、「ホルムズ海峡を守る有志連合」の結成という、アメリカの構想が動き出している。アメリカの主張は、世界のチョークポイントであるホルムズ海峡をアメリカ単独で防衛することは、軍事的・財政的負担が大きく、もはや限界にきており、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」(アメリカ第一主義)にも反するからだ。
7月19日には首都ワシントンでアメリカによる「有志連合」の説明会が開かれた。この場でアメリカから、有志連合に参加する国に対して、「船舶、資金提供の要請があった」(共同通信)。アメリカは60カ国に有志連合を呼びかけ、「有志連合はイランとの戦争を目的にしていない。船舶の護衛が主眼」と説明している。
アメリカは多数の国を「有志連合」に参加させたい。その中で優れた海上護衛力を持つ、日本への期待は大きい。海上自衛隊のホルムズ海峡への派遣である。日本の海上自衛隊はこれまで特例法に従い、ソマリア海賊対策で実績があり、海域をにらむアデン(イエメン)に基地を持つ。
海上自衛隊はどう考えているのか。これに対し、自衛隊に詳しいジャーナリストは「尖閣諸島、日本海での海上保安庁の船舶防衛に追われ、艦艇、人員が逼迫している。派遣するとしても艦艇の数に限界がある」と分析する。しかし、エネルギー確保、シーレーン防衛を旗印に世論を誘導し、納得させれば「日本はアメリカのホルムズ海峡への海上自衛隊派遣要請を断れない」(元外務省幹部)という。
歴史や宗教より、トランプの人格のせい
ここまで激しくなっているアメリカとイランの対立の原因は何か。
歴史や宗教、地政学に起因することは意外に小さく、「トランプ大統領の個性、属性、環境が最大の要因」と、ある中東研究者は分析する。「あわや戦争か」という事態は、オバマ前大統領と国連常任理事国5カ国およびドイツ(5プラス1)がまとめたイラン核合意(2015年)から、トランプ大統領が一方的に離脱(2018年)したことから始まっている。
トランプ大統領はオバマ核合意を「イランの核兵器保有を阻止できない腐った条約」と非難。だが核合意自体は国連から承認されている。さらにイランの核開発はIAEA(国際原子力機関)によって、隅々まで監視されてもいる。イランが核合意の基本に違反していることは、これまでIAEAから報告されていない。
イランが核兵器を保有できるとしても、早くて今後10年から15年後だろう。ところが、北朝鮮はすでに核兵器と、日本・韓国・中国に届く弾道ミサイルを保有している。それなのに、北朝鮮の核・弾道ミサイル保有を「アメリカに届かなければ容認する」というアメリカの政策はどこかおかしい。
トランプ大統領は北朝鮮の最高指導者・金正恩氏を気に入り、ツイッターでは「いいやつ」という扱いだ。この矛盾をまったく気にしないのがアメリカの特徴なのである。
イランを敵視するトランプ大統領の動機は、2020年11月投票の大統領選挙で再選されることしかない。その目的を達成する手段としては、①世界が驚く外交的成果を挙げること、②再選に不可欠なアメリカ国内のキリスト教(プロテスタント)福音派とユダヤ・イスラエルロビーの支持を固めることだ。
キリスト教福音派は、アメリカの人口の25%、約8000万人とされる。そのうち、旧約聖書を根拠にユダヤ・イスラエルロビーを支持する勢力は、5000万~6000万人規模と推定される。正確な数字はわからないが、いずれにせよ、選挙を左右する大票田だ。
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