政府紙幣発行は、日銀の国債引き受けより弊害が大きい
リーマンショック以降、世界中で大規模な信用収縮が発生した。もちろん日本も例外ではない。信用収縮はデフレ圧力になる。デフレは再び始まりつつあり、対策の必要性が叫ばれている。しかし日本では、金利が極めて低い水準にはりついていて金融政策の選択肢は少ない。そうした状況下、最近議論が聞かれ始めたのが政府紙幣発行論だ。
わが国における政府紙幣の発行には、過去三つの時期があった。
最初は1868年の明治新政府発足から82年の日本銀行設立までの時期である。中央銀行である日銀の設立以前は、紙幣は72年の国立銀行条例に基づき、73年から民間銀行である「国立銀行」が発行したが、それ以前は政府が紙幣を発行していた。また、国立銀行券が発行されるようになっても、「改造紙幣」と呼ばれる政府紙幣が並行して発行された。
1882年、日銀が設立され、政府紙幣の発行はしばらく中断する。
政府紙幣発行の第2期は、第一次世界大戦期である。戦争で銀価格が急騰し、銀貨の発行が困難になったことを理由に、50、20、10銭の3種類の政府紙幣が発行された。
第3期は、戦時色が濃くなりつつあった1938年。金属を優先的に軍需に回すため、補助貨幣(硬貨)だった50銭が政府紙幣化された。
これら第2、第3期の政府紙幣は、戦争という非常事態下における資材不足がもたらしたものだった。
ところが、今回の政府紙幣発行論は、従来とは背景がまったく異なっている。今回の政府紙幣発行論の政策目的は二つであると考えられる。
第一は、財政上の目的だ。国債の発行残高が膨れあがっている状況下で、国債を増やさずに政府の財源をつくることである。現在の危機的な不況を打開するために財政支出の拡大が迫られているが、財源は頭の痛い問題だ。そこで政府紙幣の通貨発行益を充てようというわけである。
第二は、金融政策上の目的だ。政府紙幣発行によってマネーサプライを増やし、デフレからの脱却を図ろうというわけである。
ただ政府紙幣発行は、戦後はまったく顧みられてこなかった政策で、「異説の類」(与謝野馨財務・金融・経済財政担当相)との声すらある。そこであらためて問題点を整理してみたい。