「全ての道はローマに通ず」とワインビジネス《ワイン片手に経営論》第4回 

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■市場拡大と社会インフラは密接に関わる

 このようにローマ時代のワイン市場の拡大は、ワインそのものとは全く関係のない平底船に見られる造船技術、道路に見られる土木技術、水道に見られる管理能力などが重要な役割の一端を担ったと考えられます。ここには、現代に生きるビジネスパーソンが、強く肝に銘じておくべき示唆が含まれているように思います。例えば、今回の場合、ワインビジネスの拡大を考えるとすると、ついつい、ブドウ栽培とか醸造といった技術を考えてしまいがちですが、ビジネスは生産だけではなく、市場に商品をいかに届けるかといった輸送技術、さらにはこうした輸送技術を最も効果的に活かす社会インフラの有無といったことも視野にいれなければなりません。つまり、技術というものは、その技術を取り巻く周辺環境によって初めて活かされる場合があるということです。分かりやすく言うと、自動車ビジネスの場合、舗装された道路や、こうした道路を管理する通行料や税金を徴収管理する能力があって初めてその市場が大きく拡大するポテンシャルを持つのと同じです。

 以上のことから、ギリシャ時代にはワインの交易市場が地中海沿岸のナルボンヌやマルセイユから、やや内陸部に入ったヴィエンヌあたりまでが精一杯だったものが、ローマ時代にはガリアの奥深くまで市場が拡大していくことになりました。ヴィエンヌ以北のガリア北部では年間1万2000~1万5000キロリットルのワインが消費されていたという試算もあり、これは現在の750ミリリットル入りワインボトル2000万本に相当し、いかに大規模な市場ができあがってきていたかが推測されるわけです。こうしてローマ時代のワインは、幸運にも平底船、道路、水道に見られるようなさまざまな高度な技術と巡り合うことで発展を遂げ、現在のワイン王国であるフランスにワインを橋渡ししていきました。

 なお、今回のコラムは、だいたい紀元1世紀ごろまでのローマ時代のお話で、あくまでもガリアにおけるワイン消費市場の広がりについて記しました。しかし、ブドウの栽培地域については、いまだナルボンヌやマルセイユといった地中沿岸から遠く離れたところには広がっていませんでした。このころのブドウ栽培の北限は、地中海沿岸のナルボンヌからボルドーに抜ける途中にあるガイヤックや、マルセイユからローヌ河を北上してリヨンに着くほんの手前にあるヴィエンヌあたりでした。

 そして、これ以降、ワインはいよいよフランスで発展を遂げていきます。しかし、この市場拡大は後に、ローマ人自身の首を絞めることになります。それは、新たな技術革新によるものでした。次回のコラムでは、どのような技術が彼らの首を絞めることになるのか、お話ししていきたいと思います。

《プロフィール》
前田琢磨(まえだ・たくま)
慶應義塾大学理工学部物理学科卒業。横河電機株式会社にてエンジニアリング業務に従事。カーネギーメロン大学産業経営大学院(MBA)修了後、アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社入社。現在、プリンシパルとして経営戦略、技術戦略、知財戦略に関するコンサルティングを実施。翻訳書に『経営と技術 テクノロジーを活かす経営が企業の明暗を分ける』(英治出版)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2009年1月8日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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