日本政府は韓国の輸出規制を再考すべきだ WTOで争えば、より大きなリスクを招く

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しかし、今回日本政府が行った対韓輸出規制は問題の次元がまったく異なる。

韓国がホワイト国指定・解除の恣意性や審査制度が実質的に輸出を制限していることを争えば、ワッセナー・アレンジメント実施のための正統な輸出管理のWTO協定整合性が正面から問われることになる。これまで大人の知恵で慎重に維持してきたWTO体制と安全保障貿易管理レジームの平穏な共存がくつがえるおそれがある。今回の日本の対応が、合理的な安全保障貿易管理制度でも運用の枠内にあるとしても、必ずしもWTO協定に適合していると担保されるわけではない。それを争うリスクをいかにして避けるかが重要だ。

あまりに楽観的な日本政府の主張

日本政府は、今回の措置は安全保障貿易管理上の見直しであって、WTO上まったく問題がないと繰り返し説明しているが、あまりに楽観的だ。GATT21条があるから安全保障貿易管理がWTO協定上、問題がないという神話は、これまで誰もこの問題を争わなかったからに他ならない。

今年4月のロシア・貨物通過事件パネル判断を見ればわかるように、ひとたびWTO紛争が提起されれば状況はまったく異なる。本件はクリミア危機のような明白な武力衝突を扱ったにもかかわらず、パネルは安全保障を理由に判断回避を要求したロシアの主張を一蹴し、ウクライナ発の貨物通過規制がGATT21条に適合しているかを客観的に審査した。

仮に本件がWTOパネルにかかると、韓国によるGATT1条・11条違反の主張には分があると言わざるを得ない。それは、今回の日本の対応が、ホワイト国などとの比較で韓国を差別的に扱い、フッ化ポリイミドなどが輸出禁止になる可能性があるからだ。

そうなると、日本はGATT21条の例外だと主張することになるが、先例によれば、例外的事情の存在と何が日本の「安全保障上の重大な利益」であるかを説明しなければならない。

詳細が未公表なので断定できないものの、今回の措置がGATT21条にある例外的事情に当てはまるかと言えば、問題の物資が兵器や核物質でもなく、日韓関係が「信頼関係が損なわれた」というだけでは無理がある。たとえば、韓国企業から北朝鮮や中国などの第三国への流出があり、これが軍事施設供給のための取引と説明できるかどうかだろう。

本当に韓国のワッセナー違反であるのなら、日本はその旨を明らかにした上で毅然と対応すべきであり、その場合は、自らの不適切対応を棚上げしてWTOに問題を持ち込み、安全保障貿易管理体制との棲み分けを侵した批判は、韓国が受けることになる。しかしそうであれば、世耕弘成経産相が7月2日の記者会見で述べたような、G20までの徴用工問題の未解決がその背後にあることを匂わせるような発言は、今回の対応の目的が安全保障目的以外にあることを疑わせるもので、厳に慎むべきだ。

逆に韓国に大した不適切事案がなく、日本が韓国に対して外為法上の待遇を政治的に利用しているとすれば、安全保障貿易管理の濫用の誹りは免れない。ウォールストリート・ジャーナルなどが、今回の日本政府の対応は、安全保障を口実にした通商制限であり、トランプ流への追随と評しているが、こうした見方の広がりが強く懸念される。

いずれにせよ、一つ間違うと、今回の措置は永年にわたって築かれた国際通商のガバナンスを大きく損なうおそれがある。これらを十分に認識のうえ、可能なかぎりWTO紛争化を回避すべく、7月12日の日韓会合を皮切りに、韓国とは情報交換と協議を尽くすべきだ。

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