輸出規制強化で「韓国半導体」は大打撃なのか 対象品目狭く、抜け穴もあって影響は限定的

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レジストにはいくつかの種類があり、今回の管理強化の対象になったのは極紫外線(EUV)露光という最先端プロセスで使うものだ。このプロセスでの量産にこぎつけたのは台湾の半導体企業TSMCだけ。サムスン電子も量産を目指しているが、まだ研究開発段階に過ぎない。レジストが手に入らなければ、最先端品の開発が進まない可能性があるが、主力のメモリが製造できないなど、業績にすぐに跳ね返ってくるわけではない。

さらに、JSRのベルギーにあるEUV向け生産拠点のように、日本のレジストメーカーの生産拠点は海外にもあり、今回の輸出規制は海外拠点には及ばないという「抜け道」もある。

長期的には日本の材料メーカーの脅威に

フッ化ポリイミドは、スマホなどに使われる液晶や有機ELパネルに使われる。フッ化ポリイミドの材料となる物質を作っている有力な日本企業はあるものの、フッ化ポリイミドそのものではないために規制対象ではないという。

さらに、日本から韓国への直接輸出が規制されても、第三国経由で入手することは難しくないと指摘する経産省関係者もいる。この場合、余分なコストがかかるため、韓国企業には痛手となるが、「経営が傾くほどにはならないだろう」(関係者)という。逆に懸念されるのが、規制をかけて取引が停滞する間に韓国内でフッ化水素などの生産体制が整備されることだ。その場合は韓国内だけでなく世界中で日本企業と競合関係になることが予想され、長期的には日本の半導体材料メーカーにとって脅威になりうる。

「包括許可が個別許可になったからといって、輸出を制限するわけではない」というのが経産省の言い分だ。今回輸出規制の対象になった品目は、過去に問題になる事案があり、その調査に韓国政府から十分な協力が得られなかったものだ。経産省の担当者は「(個別許可の)審査に最大で90日かかるということは公表しているが、いたずらに長くすることはない」と話す。

輸出規制はWTO(世界貿易機関)協定違反だとの指摘についても、「安全保障に関わる管理であり、その枠内でやっている」と経産省は主張する。韓国の半導体産業に致命的な打撃を与えようとすれば、同じ材料でもシリコンウエハの輸出を規制すべきだとの声もあるが、「産業保護のために、理由なく貿易を止めるわけにはいかない」とする。

要するに、今回の輸出規制は「建前上は対韓制裁を目的としたものではなく、韓国経済に打撃を与える意図も実質的な効果もない」ということのようだ。

参院選を前に対韓強硬策という「ポーズ」を打ち出した安倍政権。現時点で大きな影響がないにしても、対象品目を拡大したり、審査が長期化したりすれば日本企業にとっても悪影響が出る恐れがある。ある業界関係者は、「半導体業界には強い政治力がない。だから、こういったときに利用されてしまう」とぼやいている。

高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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