被雇用者の自由選択法案、日本企業が脅えるオバマ“新法案”の影響
「いったいどう対策を打てばいいのか」--。
現在、北米では日系自動車部品メーカーの業界団体に、加盟企業からこうした不安の声が多く寄せられているという。その原因は、オバマ大統領が公約に掲げる「ある法案」にある。現地では、法案成立への対策を企業弁護士が毎月のように講義するなど、その行方に注目が集まっている。
懸案となっている法案は「被雇用者の自由選択法案」(英語名称「Employee Free Choice Act」)。米国内企業の労組の設立手続きを大幅に簡素化するものだ。
働長官を異例抜擢 高まる法案成立の機運
従来、米国では労組結成のために2段階の手続きが必要だった。まず希望者が職場労働者の過半数の署名を集める。その後、政府機関である連邦労働関係局(NLRB)の管理下で匿名投票を実施し、過半数の賛成を得れば成立となる。だが新法案では、2段階のうち投票の手続きが不要(下図参照)。つまり職場の過半数の署名さえ集めれば労組を結成でき、逆に企業側は労組成立にほとんど関与できなくなる。
この法案が最初に審議されたのは2007年。背景には、米国内で所得の格差が拡大し、貧困層が増大するなど、弱い立場の労働者を保護することへの関心の高まりがあった。だが法案は下院で可決したものの上院で否決。その後もブッシュ前大統領が法案反対の態度を崩さず、「休眠状態」となっていた。
一方、オバマ大統領は大統領候補時代から法案への支持を表明しており、当選後も法案成立に意欲を示している。その表れが、新労働長官に任命された民主党のヒルダ・ソリス下院議員の存在である。「ソリス氏は移民労働者の地位向上運動など数々の労働運動への参加の経歴があり、労組系の基盤が強い民主党の中でも活動派」。米国の労使問題に詳しい労働政策研究・研修機構の山崎憲氏はそう指摘する。労働長官は学者や企業の管理部門から選ばれることが多く、労働運動家の抜擢は異例。同氏の就任で、法案成立の機運がいっそう高まっている。
仮に同法案が成立すれば、現地日本企業への影響は必至だ。中でも甚大な影響が危惧されるのが、自動車関係の企業である。