データで監督・俳優を決定、Netflix制作の裏側 オリジナルコンテンツの制作にこだわる理由
2016年、ヘイスティングスはオリジナルコンテンツの大幅強化を発表した。具体的には、新作とリメークを合わせて30本以上のドラマシリーズのほか、20本以上の長編映画や30本の子ども向けドラマシリーズ、多数のスタンドアップコメディ番組を制作する計画を明らかにした。
これはエンターテインメント業界全体への警鐘であり、消費者の好みや行動が激変する未来へのロードマップでもあった。
業界の大物は危機意識を持って反応した。『セックス・アンド・ザ・シティ』や『ゲーム・オブ・スローンズ』で知られるHBOは制作費を25億ドルへ拡大、テレビネットワーク大手CBSはコンテンツ予算を40億ドル投下、アマゾンはストリーミングサービス「プライムビデオ」用コンテンツに45億ドル支出――。いわば「エンターテインメント版の軍拡競争」が始まったのだ。
競争で優位に立ったのはストリーミングサービスを手がけるIT系巨大企業だ。株式市場から目先の利益よりも成長を目指すよう求められており、大胆に行動できるからだ。旧来型のメディア大手はまともに勝負できなかった。
「利益を出していない企業と競争するのは不思議だし、興味深いですね」とケーブルテレビ局FXのCEOジョン・ランドグラフは語った。「市場シェアを奪うために果敢に投資し、意図的に赤字を出している――そんな企業を相手にして勝負するんですよ。仮にうちが負けてつぶれたら? 敗因は利益を出していることだとしたら?」。
向こう10年の体制を固める
ネットフリックスは目先の利益よりも成長を優先する典型的IT企業だ。2018年までにコンテンツに130億ドル投資し、このうち85%をオリジナルコンテンツへ回す計画を策定した。
株式市場での高い評価をテコにして、ネットフリックスは一流プロデューサーや監督、脚本家を片っ端からスカウトした。大物がこぞってネットフリックスと手を握ったことで、ハリウッド全体を驚愕させた。これによってネットフリックスはドラマコンテンツの面で向こう10年の体制を固めたのである。
今後、ネットフリックスやHBO、アマゾンなどの有力企業がさまざまな形で競争を続け、エンターテインメント、メディア、IT各業界の勢力図を大きく変えていくだろう。
ただし1つだけ決して変わらないことがある。どれだけ各社が大金をつぎ込み、目もくらむようなテレビドラマを制作したところで、1日は24時間しかない。食べたり、働いたり、散歩に出かけたり、ソーシャルメディアをチェックしたり――。残った時間を各社で奪い合う競争でもあるのだ。
ヘイスティングスは予測している。ひょっとしたらそれはもう起きているかもしれない。
「死ぬほど見たい映画やドラマがあったらどうしますか? 夜更かしするしかないでしょう。つまり競争相手は睡眠。ここでもわれわれは勝ちつつあります!」
(翻訳:牧野洋)
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