データで監督・俳優を決定、Netflix制作の裏側 オリジナルコンテンツの制作にこだわる理由
ネットフリックスは、無数のデバイスに組み込まれたアプリによって膨大な顧客データを蓄積していた。どのように映画を探しているのか? どこで見ているのか? 何時に見ているか? 1日何時間見ているのか? どのシーン・人物を何度も早送りしているのか? どの視聴者にとってどの俳優が魅力的なのか?――こうした契約者の視聴パターンを細かく把握できるようになっていたのだ。
データによればフィンチャーと主演のケヴィン・スペイシーには興味深い共通項があった。両者とも一般視聴者の間では知名度はいま一つだが、フィンチャー監督作品を1つ見た視聴者はフィンチャー監督作品をすべて見たがり、スペイシー出演作品を1つ見た視聴者はスペイシー出演作品をすべて見たがった。
共通項はほかにもあった。フィンチャーとスペイシーのファンはそろって『ハウス・オブ・カード』に興味を持っていたのだ。これは1990年にイギリスで放送された政治テレビドラマで、実はこれこそがフィンチャーがアメリカ向けにリメークしようと考えていた作品だったのである。
1億ドルを用意した
2018年、サランドスは当時を振り返ってインタビューの中で次のように語っている。「われわれにとって未来とは未知の世界を開拓することです。ここで役立つのがビッグデータです。新しいオリジナルドラマを制作しようというとき、ビッグデータを活用すれば適任の監督・俳優を割り出せるし、潜在的視聴者の人数も割り出せるんです。その1回目が『ハウス・オブ・カード』でした」
「長編映画からテレビドラマへ転身するわけですから、フィンチャーにとっても大きな賭けでした。われわれは『これまでのテレビドラマとはまったく違う先駆的なものに挑戦できる』と言ったんです。最後には彼はとてもエキサイトしてネットフリックスを選んでくれました」
巨額の制作費も見逃せない。2シーズンの制作費としてネットフリックスはハリウッド基準でも破格の1億ドルを用意した。
フィンチャーにとって魅力的な要素は制作費以外にもあった。同社経営陣はコンテンツには一切関与せず、監督への全権委任を確約したのである。
『ハウス・オブ・カード』第1シーズンの配信(2013年2月1日)から1年以内に契約者数は3割以上増え、その後も勢いは止まらなかった。ネットフリックスは成功を追い風に、ビッグデータ主導のオリジナルコンテンツ制作を加速させていく。
ネットフリックスは制作現場の在り方を一変させた。ベテランプロデューサーの直感や過去の常識に縛られず、ビッグデータを信じて監督や俳優を選ぶことを基本にした。海外展開においてもビッグデータを全面活用した。
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