この言い方は、経済学者出身の劉鶴氏にしては「らしくない」。たぶん党のお偉方に言われたことを、そのまま言っている。取締役会で叱りつけられた営業部長が、役員に言われた通りのことを客先で言わされている、といった「絵」が思い浮かぶ。
おそらくは対米交渉担当者に対して、怒号が飛んだのだろう。怒りのポイントは、「国家の尊厳が失われる」「不平等条約は許せない」的な精神論であった公算が高い。これまで「学友」である劉鶴を信用し、対米交渉を任せてきた習近平総書記としても、さすがに守り切れなくなったのではないか。
習近平総書記が突如北朝鮮に飛んだワケ
6月に入り、香港で起きた事態がさらに習近平氏の立場を苦しいものにしている。6月9日には103万人、16日には200万人規模のデモが発生し、懸案だった「逃亡犯引き渡し条例」の改正案は廃案となる公算が高くなった。ちなみに香港の人口は750万人で、あれだけの動員が大きな混乱なく収束できたのはそれ自体が奇跡に近い。ともあれ、これまで「香港の1国2制度は成功している」と言っていた中国共産党のメンツは丸つぶれになった。
おそらく中国共産党内には、これを「西側諸国に誘導されたカラー革命の一種」と断じ、強硬手段を主張する声も出ていることだろう。何しろ同じことが国内の別の都市で発生した場合に、示しがつかないではないか。しかし少なくともG20前には動けない。
そこで習近平国家主席が選んだのは、平壌に飛ぶことであった。G20の1週間前に金正恩委員長と会っておく。そうすれば米中首脳会談においては、朝鮮半島情勢も協議事項の一つに加わる。相対的に通商問題や香港の人権問題が小さくなるというわけだ。
しかしトランプ大統領としては、是非とも通商協議を前進させたい。18日には来年の大統領選挙における再選を目指し、初の大規模集会をフロリダ州で開催したばかり。対中ディールを進めて株価を上げて、ビジネスフレンドリーなところを見せたい。そこでG20への随行団から、対中強硬派のピーター・ナヴァロ顧問を外す、あるいは6月4日の「天安門事件30周年」に予定されていたマイク・ペンス副大統領による対中批判演説を延期させるなど、トランプさんなりの対中配慮をしている。
さて、どうなるのか。サミットに失敗なし、という。周囲から「玉虫色」と言われようが「同床異夢」と言われようが、終わった後に双方が「実りある会談だった」と語る。そういう米中首脳会談になるのではないか。もっとも神は細部に宿る。どっちが得をしたかは、すぐにはわからないような結果になるものと推測する。ということでG20の会議自体はセレモニーみたいなものだが、外交機会としての意義はまことに大きい。
もちろん最大の注目点は米中だが、日本外交にとっても無数のチェックポイントがある。以下のような点も、いちおうお忘れなく。「日米」(3カ月連続の首脳会談だが、ホントに8月に通商合意ができるのかねえ)、「日中」(習近平国家主席の訪日は今回が初めて。G20前の27日夜には晩餐会もあるそうですよ)、「日ロ」、(平和条約と領土問題は、もうあんまり期待していないけどね)「日韓」である(開かれないことに意味がある。「だってウチ、選挙前にオタクと会うと票が減るから」というわけだ)。
(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が、週末の人気レースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)
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