G20首脳会議は米中貿易戦争を止められるのか 「サミットに失敗なし」の格言は生きている

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「なんでこんな会議が始まったのか」って?――いい質問だ。G20首脳会議の歴史はまだ10年とわずか。発端はあの2008年のリーマンショックであった。リーマンブラザーズ証券の倒産から1か月後の2008年10月、G20財務相・中央銀行総裁会議がワシントンで招集された。アメリカ発の株安は全世界に波及し、果てしない信用不安が広がっていた。議長役を務めたヘンリー・ポールソン財務長官は、何度も”apologize”(おわびする)という言葉を使ったという。

このとき、会議の終わりにブッシュ(子)大統領が姿を見せ、参加者全員と握手をした。その上で、首脳レベルの会議をアメリカ主導で開きたいとの申し入れがあった。かくして11月14-15日にワシントンにおいて、G20メンバーによる初の「金融・世界経済に関する首脳会合」が開かれる。これが第1回のG20首脳会議となったのである。

存在意義が曖昧になるG20だが見どころは?

実は、この直前に行われたアメリカ大統領選挙ではバラク・オバマ氏の当選が決まっていた。ブッシュ大統領は既にレイムダック状態だったが、この会議は「花道を飾る」場となり、終始上機嫌であったという。以上は『リーマンショック――元財務官の回想』(篠原尚之/毎日新聞出版)が伝えるところだが、現在の絶好調なアメリカ経済と、「俺様モード」のドナルド・トランプ大統領を考えるといかにも隔世の感がある。

かくして1970年代の石油ショックがG7首脳会議を生んだように、21世紀には国際金融危機がG20首脳会議を誕生させた。しかし金融危機の影響が薄れるにつれて、G20は規模ばかりが拡大し、存在意義はどんどん曖昧になっている。

今年のG20においては、デジタル貿易のルール作りや、海洋プラスチックごみなどの環境問題といったテーマが協議されるそうだ。その一方で、今や世界経済にとって最大のリスクとなっている米中貿易戦争の問題については、これを解決、いやそもそも口出しできるのかさえ、心もとない。

強いて言えば、G20という会合があるからには、そこには無数の組み合わせの2国間会議が成立する。その中には当然、米中首脳会談も含まれる。外野としては、それを注視するしかない。昨年12月のブエノスアイレスG20サミットでも、米中首脳会談が行われた。その後も両国の間では、アメリカ側がロバート・ライトハイザー通商代表とスティーブン・ムニューシン財務長官、中国側が劉鶴副首相の間で断続的に協議が続けられてきた。

今年5月初め時点では、協議はかなり「いい線」までこぎつけていた。7分野150ページもの分厚い合意文書を積み上げていた。ところがそれを中国語に翻訳し、共産党常務委員会にかけたところで「異変」が起きた。

5月10日にワシントンで行われた米中閣僚級協議が決裂した後、劉鶴副首相はめずらしく記者会見に応じ、「どの国にも自らの尊厳があり、協議文書のバランスを改善せねばならない」と述べた。

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