製造業派遣は是か非か--労使キーマンが激論バトル《特集・雇用壊滅》
■労働側の主張
「ルールを守らない企業に派遣を許さないのは当然だ」
--高木剛・日本労働組合総連合会会長
派遣という労働形態は、そもそも一時的、短期的な雇用調整の仕組みだ。あるいは、たとえば通訳のような仕事そのものに専門性があり、スポット的な働き方をする業種を対象とすべきもの。それが、1999年に一般業務にまで対象が拡大し、さらに2003年の改正で製造業にまで広がってしまった。派遣上限期間も1年から3年に延長された。
その結果、派遣労働の本来のあり方から離れ、単に期間の定めのある有期雇用という面だけが強調されることになった。さらに、賃金コストが安いからという理由で、雇用調整の対象となる枠を超える形で、派遣労働者が業務に広く組み込まれるようになった。
ところが、直接雇用関係にない派遣先企業にとって、派遣労働者を使うのは、資材の調達と同じ発想だ。打ち切るときにも「明日から、この部品は持ってこなくていいよ」という感覚で処理してしまう。派遣先企業には、生身の人間を扱うという意味での責任感がない。規制緩和が進む中で、景気が悪化したら起こるべくして起こったのが、現在の派遣切りだ。
企業が法律や契約などのルールをきちんと守れないなら、派遣という労働形態を許すな、ということになるのは当たり前だ。連合の基本方針は、99年の法改正以前の状態に戻すということ。要するに、一般業務への派遣は原則ノーだ。
一般業務の中には、製造業派遣も含まれる。連合内部にも、いろいろな意見はあるが、乱暴な派遣切りまで肯定しているわけではないだろう。基本方針の背景、その持つ意味は理解されていると思う。
ただし、形態は派遣でも、仕事内容に専門性があり、訓練も受け、常用的に使われている常用型派遣もある。それと登録型派遣とは区別して考えるべきだ。また、仮に製造業派遣が禁止になるとしても、現在働いている人たちの雇用を守るための経過措置は必要だろう。
ただ、景気が悪化し、製造業などで設備の稼働率が下がってくれば、雇用調整もやむをえない面がある。さらに「2009年問題」もあり、今年3月で契約が終了となる派遣労働者が大量に出てくる。したがって、雇用調整の対象になる労働者の生活を守るためのセーフティネットが必要になるが、まだまだ不十分なのが現状だ。
重要な課題の一つが職業訓練だ。介護や環境関連など、今後さらに社会的に労働者が必要になる部門がある。そこに就労するための職業訓練を労働者に受けてもらう。連合では、職業訓練の期間中の生活保障を訴えている。
ワークシェアリングの議論も出ている。過去にも労使で協議したことがあるが、うまくいかない理由が二つあった。一つは労働時間の問題。時間外労働を含めて労働時間の上限をどのように規定するかが、議論の前提となる。もう一つは同一価値労働同一賃金。同じ仕事をしているのに、片や賃金が100、片や50というのでは、仕事を分け合うということにはならないだろう。今後ワークシェアリングの議論をするにしても、その定義や中身をきちんと整理する必要がある。
たかぎ・つよし 写真右
1967年東京大学卒業後、旭化成入社。ゼンセン同盟(現UIゼンセン同盟)会長を経て2005年より現職。