老後資金「2000万円騒動」の本質は何なのか 年金改革先送りは形を変えた「利益誘導策」だ

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日本の場合、与野党ほとんどの政党が積極財政をうたう「大きな政府志向」で、その点では差がない。そればかりか2009年に政権を獲得した民主党の場合は、自民党以上のバラマキ政策を展開し、過去最大の赤字国債を発行したことは記憶に新しい。

つまり、与野党は一見、対立しているように見えるが、政策の本質は同工異曲で、どちらも「財源なき利益誘導」を掲げている。

日本にも骨太な政治家が存在した

かつては日本にも骨のある政治家がいた。オイルショックの後遺症が残る1975年、時の大平正芳蔵相は2兆円の赤字国債発行に踏み切ったが、そのことを恥じて「万死に値する」と悔いた。そして、後に首相になったとき、一般消費税の導入を試みた。

ところで報告書で2000万円が必要になるとされたのは夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のケースである。それより若い世代については具体的な数字を挙げていない。しかし、寿命が延びる一方で年金額が増える見通しはないのだから、若い世代の必要額は2000万円以上になることは間違いない。これも見過ごせない問題である。

7月の参院選では、与野党が国民にとってバラ色の政策を競い合うことになるだろう。そして、参院選が終わるまで社会保障制度の改革についての政府内の議論は凍結される。財政の深刻さや社会保障制度の抱える問題を語らず、利益誘導の競演を展開する。まさに政治の貧困である。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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