老後資金「2000万円騒動」の本質は何なのか 年金改革先送りは形を変えた「利益誘導策」だ

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同時に、自民党を支えてきた業界団体などの弱体化も始まった。価値観の多様化や生活様式の変化などで企業や組織に対する人々の帰属意識が弱まってきた。その結果、いわゆる組織票が急速に減り、自民党は業界団体を当てにした選挙ができなくなったのである。

そこで新たなターゲットの1つになったのが高齢者だ。2017年の総選挙の投票結果を見ると、世代別投票率は20代が30%台、30代が40%台、40代が50%台、50代が60%台、そして60代が70%台と、きれいに右肩上がりとなっている。有権者数も釣り鐘型の人口構成を反映して、高齢者に比べて若い世代は少ない。

つまり政党にとって高齢者世代は最大の票田となったのだ。選挙に勝つため、高齢者にターゲットを絞り、年金や医療、介護などの制度を優遇する個人給付型の利益誘導を打ち出した。それが「シルバー民主主義」と呼ばれる高齢者に手厚い政治である。

しかし、この現代版利益誘導政治が大きな問題を抱えていることは言うまでもない。かつてのような経済成長という原資がないにもかかわらず、バブル経済崩壊後も果てしなく財政拡大路線を続けている。その結果は、財政の危機的状態である。

財制審は金融庁報告よりはるかに厳しい批判

昨年11月に財政制度等審議会が出した「平成31年度予算の編成等に関する建議」は、一般政府債務残高が対GDP比238%に達したという数字を挙げて、「平成という時代は、こうした厳しい財政状況を後世に押し付けてしまう格好となっている」「将来の世代はそのツケを負わされ、財政資源は枯渇してしまう。悲劇の主人公は将来の世代であり」などと徹底した政府批判を展開している。

金融庁の報告書よりはるかに手厳しい内容だが、政府、自民党内では議論の対象になるどころか、完全に無視された。ちなみにこの建議も麻生氏に提出されたが、こちらは受け取りを拒否されたとは聞かない。

実は同じことが野党に対してもいえる。金融庁の報告書に対して野党は「政府が約束した100年安心が嘘だった」などと批判している。中には参院選を意識して、「2000万円ためなきゃいけない政治か、ためなくても安心して老後を預けられる政治か、どっちを選ぶかだ」という声も出ている。これも高齢者に対する利益誘導という点では自民党とまったく同じ発想でしかない。

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