「老後2000万円」問題のあまりに残念なすれ違い

金融庁の報告書を読んで再考してほしい

高齢無職世帯の毎月の不足額が平均5万円というデータは以前から総務省がずっと発表していますし、私も2年前に本コラムで触れています。⇒(「定年後は月8万円稼ぐことができれば十分だ」2017年4月22日付)。

それに金融庁の文中にもあるように、これはあくまでも平均値であって、ライフスタイルや収支は人それぞれですから、絶対不足するというわけではないのです。実際、食べていくだけであれば公的年金だけでも可能です。

総務省のデータでは平均受給額が約22万円程度となっていますが、世の中にはもっと少ない年金で生活している人もたくさんいます。私自身も60代前半の頃は基礎年金が支給されなかったので、支給額は月に直すと14万円ぐらいでしたが、食費や光熱費といった最低限必要な生活費部分はそれだけでも賄うことができました。

でも、それだけでは旅行に行ったり、趣味にお金を使ったりという、楽しいことはなかなかできません。だから「働いて稼ぐなり、若いときから蓄えを持つべく自助努力も必要だ」ということを言っているにすぎないのです。これは考えてみれば当たり前のことです。

年金の本質は「保険」 

今週の『週刊東洋経済』(6月15日号)に慶応大学の権丈善一教授のインタビュー記事が載っています。その中には、「これからの時代はWPPだ」というお話が出てきます。W=ワークロンガー(長く働く)、P=プライベートペンション(企業年金、自分の蓄え)、P=パブリックペンション(公的年金)のことで、野球に例えれば先発がW=働くこと、公的年金がもらえるまでの中継ぎがP=企業年金や貯蓄、そして抑えの切り札がP=公的年金ということです。

これはなかなかいい例えだと思います。年金の本質は貯蓄ではなくて保険ですから、大前提になるのが、まずは働いて自助努力で蓄えること。そして高齢になって働けなくなったら、年金を受け取る。公的年金は終身、すなわち最低限の生活保障が死ぬまで受けられるというのが基本的な仕組みですから、まさに抑え=保険としての役割ということなのです。

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記事の中にも出てきますが、年金不安をあおるのは金融機関などの常套手段です。年金が不安だとあおらなければ保険や投資信託といった金融商品が売れないからです。しかしながらすべての老後生活資金のベースにあるのは公的年金です。

したがって、報道に惑わされるのではなく、それがいったいどういうものなのかを正しく理解することがまず必要です。そのうえで、自分の将来の生活にかかる費用を考えて、必要であれば現役時代から貯蓄や投資で蓄えることです。そしてもし、60歳を前にしてその蓄えが不十分であるということなら60歳以降も働くか、もしくは生活の無駄をなくして生活費を抑えることが必要になってきます。

今回の「2000万円騒動」を奇貨として、もう一度生涯にわたる自分自身のキャッシュフローを考えてみることが必要なのではないでしょうか。

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