ボルボが「交通死亡事故ゼロ」にこだわる理由 2021年モデルからは180km/hまでの速度制限

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この180km/hの速度制限は、ボルボにとって4~5番目という大市場であるドイツ向けにも適用される。アウトバーンを有し、いまだ速度無制限区間も多いドイツでの販売に、この施策が少なくとも短期的には影響皆無というわけにはいかないだろう。しかしながら今の世の中の風潮からすれば、これは正しい方向性に違いない。

なお、ボルボは同じく2021年モデルから、最高速を任意で設定可能なケアキーの導入も発表している。これは車両を家族や子どもに貸し出すとき、さらにはカーシェアリングに提供するときなどに役立つことになる。

安全の価値が下がることはない

さらに2020年代初頭に発売される次期型プラットフォーム採用モデルからは、ドライバーモニタリングカメラも搭載すると、すでに発表済みである。運転中の携帯電話の使用などによる注意散漫、そして飲酒や薬物の使用などによる酩酊状態を認識すると、まずは警告を発し、反応がなければ車両が運転に介入。減速、アシスタンス・サービスへの通報、さらには自動的に停車させることまで行う。

結局のところパッシブ・アクティブの両面でセーフティ技術を向上させるだけでは、「Vision 2020」の達成は不可能だと、ボルボは悟ったのだ。

ドライバーの適切な行動が伴わなければ、事故ゼロは実現できないというわけだが、はたして自動車メーカーができるのは、どの範囲までの話なのだろうか。あるいは自動運転の時代まで、それは実現できないのだろうか。つねにクルマの安全性について考えてきたボルボの示すヴィジョンが、投げかけてくるものは大きい。

いずれにしても電動化、知能化など、クルマを取り巻く環境が目まぐるしいスピードで変化している中、安全の価値が下がることは今後もありえない。自動運転の時代にしても、結局は先進安全・運転支援機能の進化の積み上げの先にこそ来るものだけに、その追求はつまりブランドの未来に直接つながってくる。2020年に向けて、そしてそれ以降もボルボの歩みがペースを緩めることはなさそうである。

島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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