AIもゴミも仮設住宅も、投資テーマになる ムーギー・キムの弟が説く「インパクト投資」

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──次の投資案件は決まっているのですか。

未公開ベンチャーから上場株まで扱うファンドとして、案件開拓も資金調達もつねに複数同時進行しています。リターンは2020年の東京オリンピックが終わったころから出始めそう。僕の短気な性格もあるけれど、シード期(創業初期)の日本のベンチャーには投資しない方針にしています。

ZMPやジェノプランみたいに優れたベンチャーで、かつレイトステージ(技術開発も事業も一定の成熟を迎えた時期)で資金を入れさせてもらえるなら歓迎します。

日本は上場株が割安だから、アクティビスト(物言う株主)もやっていきたい。既存事業にテクノロジーと高度なガバナンスを組み合わせることで、投資先企業の株主価値を向上させることもやりたいですね。

──日本でユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)のベンチャーが誕生しにくいのはなぜでしょう?

(その認識は)完全な間違いだと思う。報道機関が大手ベンチャーキャピタル(VC)にインタビューし、集計しただけなら、ユニコーンの数の実態を反映できていないはず。大手VCが投資していない、海外投資家のみから資金調達している、ステルス状態の大型ベンチャーの存在を聞いています。

ほかにも法人登記は国外だけど、創業者や経営陣、事業の重要部分が日本国内というユニコーンもあるんです。日本だからユニコーンが育たないというのはあまり正しくない。

ただし、イケてるスマートフォン(スマホ)アプリがあっても、日本語対応から海外対応に変更する必要が出てくる。よくも悪くも、ガラパゴス化が自動販売機やPOSレジ、タクシー配車でも進んでいるから、その範囲で儲けようとすると、海外市場での成長が限られてしまうという側面はあります。

旧ソ連圏、その次は北朝鮮に投資する

──海外企業への投資は。

グローバル投資の対象としては、最近は旧ソビエト連邦のエストニア、サンクトペテルブルク、ウクライナのキエフを回っています。人がやらないことをしないと差別化できない。今は個人的に信頼関係を築けた投資家さんばかりだけど、だんだん僕も機関投資家らしくなってくると、より明確に定義された投資テーマをファンドごとに求められるようになる。機関投資家として大きな夢を見るなら、思い切り差別化しないといけない。

ウクライナは冷戦時の旧ソ連の軍事技術開発拠点があった関係で優れた科学者が多い。一説によると、イスラエルの魅力的なスタートアップ経営者は、20%がウクライナ出身者と言われるほど。旧ソ連圏の科学者って天才で頭がおかしいくらい賢いけど、お金儲けをしようというメンタリティーがないことは、欧米の投資家やインキュベーター(支援者)たちが指摘しています。

共産・社会主義体制が染みついているから、開発した技術を事業化してスケール(拡大)させるために、増資しながら市場独占を目指す、みたいな感覚が根付いていないんです。でも今は、国民誰もがスマホを持ち、クラウドコンピューティングがある。エンジニアの賃金も安いし、ここぞとばかりにスタートアップが勃興しています。

で、旧ソ連での投資経験を積むうちに北朝鮮も解放されたら、その経験値を生かして北朝鮮でも投資したいですね。

僕みたいにアメリカでトレーニングを受けて、日・韓・英語を話すファンド投資家なら、北朝鮮を見据えてグローバルなうねりを起こせる気がしています。その未来像は今に始まったわけではなく、僕が2008年からアメリカの弁護士事務所のサリヴァン・アンド・クロムウェルで働いていたのも、朝鮮戦争の停戦交渉をしたアメリカ外交官が所属していたからなんです。

最近も、アメリカと北朝鮮が融和ムードになるたびにブチ上がる鉄道車両の株などに注目しています。旧ソ連圏でも投資経験を積んでいくと、それそのものが国家発展につながるインパクト投資だという見方もできるし、そう遠くない将来、北朝鮮で僕ならではのファンド投資家としての出番が来るのではないかと思っています。まだまだこれからですね。

前田 佳子 東洋経済 記者

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まえだ よしこ / Yoshiko Maeda

会社四季報センター記者

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