顧客が絶対にハマる保険営業の「殺し文句」とは 「誘惑の甘いワナ」にひっかかってはいけない

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ある会社で研究者として勤務している松井穂香さん(仮名・34歳・会社員)は、会社に選択制の確定拠出年金(DC)が導入されましたが、メリットもよくわからず、もともとお金について苦手意識があったので、勉強するつもりで、紹介されたFPに資産運用の相談をすることにしました。

元は大手のメーカーに勤めていたというFPは、最初は自分も資産運用についてはまったくの無知だったと言います。でも、あるきっかけで必要に迫られて勉強を始め、人生が変わったと。かつての自分と同じように、お金のことがわからず困っている人を救いたいと思い、FPの仕事を始めたと話してくれたそうです。穂香さんは、親近感を覚え、この人なら最善の方法を教えてくれるのではないかと思いました。

ところが、資産運用の相談をするつもりだけだったのに、結局、米ドル建て養老保険、米ドル建て終身保険、変額保険、死亡時に年金のように毎月保険金が支払われる収入保険、仕事ができなくなったときに一時金が出る就労不能保険……という5つの保険を契約することになったのです。

熱いセールストークで5種類もの保険に加入をすることに

それから2カ月後。穂香さんは「こんなに保険が必要なのかしら?」と疑問に思い始めて、私のところにご相談にやって来ました。

詳しくうかがってみると、5つも保険を勧めたFPも、やっぱり「私の仕事は、お客様を守ることだ」と本気で言っているようでした。穂香さんへのセールストークで語られた内容は正しくないのですが、きっとそのように教育されてきたのでしょう。それを信じ、熱意を持って語るからこそ、穂香さんは、説得されて契約に至ったのだと思います。

そのFPの、こんなセールストークに穂香さんの心が動いたのです。

「保険なら、結婚、出産育児など今後のライフイベントや老後資金を貯めながら、病気やケガで仕事ができなくなった場合も、障害や死亡時のリスクも、すべて賄えますよ」

穂香さんは独身です。契約した5つの保険のうち、就労不能保険を除く4つの保険金の受取人は、すべてお母様になっていました。でも、お父様も健在で、両親ともにお仕事をしています。穂香さんに万一のことがあっても、遺族が経済的に困ることはありません。また、穂香さんは会社員ですので、もし病気やケガで仕事ができなくなっても、健康保険から傷病手当金を受給できます。障害状態になったとしても、3級から障害厚生年金を受給できます。「もしも」のために、さらに自助努力で私的保険を持つ必要はないのです。それよりも、ご自身の今後のライフイベントに備えて、しっかり貯蓄していくほうが大切です。

お金を貯めることを目的にするのなら、保障と運用商品がセットになっていて両方にコストがかかる保険よりも、低コストのインデックスファンドで、非課税優遇のある口座で効率的にお金を増やしていくことです。穂香さんの利益を最優先に考えて資産運用を勧めるなら、DC制度やつみたてNISAで「長期・分散・低コスト」の運用を案内すべきではないでしょうか。

次ページセールストークでは決して触れない保険の盲点とは?
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