リクシル、対立の根底に海外買収攻勢の「失敗」 問われているのは「ガバナンス」だけではない
潮田氏は2011年、アメリカのゼネラル・エレクトリック(GE)上席副社長などを務めた「プロ経営者」の藤森義明氏をLIXILの社長兼CEOとして招聘。経営のグローバル化をハイピッチで進めるよう要請した。
背景には「少子高齢化が進む日本市場だけでは事業の持続的成長が望めず、いずれ海外の同業大手に買収されかねない」という、潮田氏の強い危機感があったとされる。
これを受け、藤森氏はビルサッシで世界最大手のイタリアのペルマスティリーザ(2011年12月、取得金額約600億円)、衛生陶器でアメリカ最大手のアメリカンスタンダード・ブランズ(2013年8月、同約530億円)、水栓金具で欧州最大手のドイツのグローエ(2014年1月、同約4000億円)などの大型買収を次々に敢行した。
当時、藤森氏は「LIXILを本物のグローバル企業に生まれ変わらせる」と自信満々に語っていた。だが「海外子会社について実態をしっかり調べたり適切に管理したりできる人材は、日本の本社では皆無に近かった」と、内情に詳しい関係者は話す。
海外事業に精通した生え抜き社員はほとんどおらず、藤森氏は買収先の経営を以前からの現地経営陣に任せていたという。LIXIL本社のマネジメント能力不足は明らかで、買収後の海外子会社では軒並み業績悪化や不祥事に見舞われている。
巨額の損失を計上したジョウユウ事件
例えば2014年1月に買収したドイツのグローエ。2015年4月には同社の中国子会社ジョウユウ(LIXILから見ると孫会社)で不正会計が発覚した。実はグローエ経営陣は、2009年にジョウユウに一部出資(2013年に子会社化)した時点から主要な財務情報に十分なアクセスができない状態だったにもかかわらず、LIXILに報告すらしていなかったのだ。
ジョウユウは実際には債務超過で、その破綻処理を迫られた結果、LIXILは関係会社投資の減損損失や債務保証関連損失などで総額608億円もの損失を計上。この時、LIXILは社外取締役と外部有識者による特別調査委員会を立ち上げ事実関係を調査したが、報告書は概要しか公表せず、全文を開示していない。
あまり話題になっていないが、南アフリカの子会社も問題続きだ。2014年10月にグローエ主導で買収した南アフリカ子会社では、現地の合弁相手にグローエが約束した運転資金の融資が実行されず、工場の操業が止まるなどの混乱が起きた。このときも、グローエはLIXILに報告をしていなかった。
南アフリカ子会社は2016年3月期以降、4期連続の赤字が続いている。LIXILは2017年に合弁相手の持ち株を買い取るなどしてテコ入れしたが、業績不振を脱する見通しは立っていない。
藤森氏は結局、ジョウユウ事件の責任をとる格好で2016年に社長兼CEOを退任。後任には潮田氏の指名により、やはり「プロ経営者」で工具通販大手のMonotaRO(モノタロウ)を創業した瀬戸氏が就いた。
瀬戸氏は新規の海外M&Aを凍結するとともに、業績不振に陥っていたペルマスティリーザ(以降、ペルマ)の売却を決断。2017年8月に中国企業のグランドランドへの譲渡を発表し、ペルマの決算を国際会計基準(IFRS)上の売却目的で保有している「非継続事業」扱いに変更した。
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