「車で乗りに来る」観光列車が赤字鉄道を救った 廃線論を一掃、人気キャラで「親子」客を狙う

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翌2017年度も同様の傾向が期待されたが、8月18日の豪雨で土砂災害が発生したことと、車両の全般検査があったため、前年度ほどの実績にはできなかったという。さらに2018年度も7月に大規模災害が発生し、完全復旧は12月1日となってしまったため、芳しい結果にはならないであろう。

そのような状況下で「ながてつチャギントン」の運行計画が着実に進んでいたことになる。その導入理由の2つ目は次世代乗客の育成だという。

子どもの頃に体験した楽しい思い出は、大人になっても忘れないもので、それは「鉄道にたまには乗ろうか」という動機付けになると坂本専務は言う。沿線の子どもは減り続け、定期利用者に依存した経営はもはや成り立たない。定期外客、しかも大都市圏からいかに集客するかが鉄道存続のカギになると坂本専務は考える。

マイカーでの来訪者獲得がカギ

実際、「ながてつチャギントン」試乗会参加者の半数は愛知県からだった。その多くは名古屋市在住だという。しかも、上り試乗列車が関駅に着く際、名古屋方面の列車に乗り継ぐ利用者は、なんと筆者1人だけだった。つまり、ほとんどの試乗会参加者は自家用車で来ているのだ。

このような時代に、鉄道での来訪者だけを期待しても効果のほどは知れている。それよりも、車でアクセスしてでも乗りたい列車を走らせることが必要で、その効果を将来につなげるために子どもたちに喜んでもらい、記憶に残る体験とすることが重要である。「ながてつチャギントン」はそのための列車だということだ。

車で来訪する観光列車という点では、「きかんしゃトーマス」が人気の大井川鐵道が目指す方向性とも一致している。また、親子で乗るという意味では、少し前に登場した岡山電気軌道の「おかでんチャギントン」と同じ方向性だ。ただ、岡山電気軌道が「歩いて楽しむ街」という都市型であるのに対して、長良川鉄道は地方型の対応と解するといいであろう。

長良川鉄道の目指す方向に間違いはなさそうだ。この先はどんな施策を繰り出していくのだろうか。

伊藤 博康 鉄道フォーラム代表

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いとう ひろやす / Hiroyasu Ito

1958年愛知県生まれ。大学卒業後に10年間のサラリーマン生活を経て、パソコン通信NIFTY-Serveで鉄道フォーラムの運営をするために脱サラ。1998年に(有)鉄道フォーラムを立ち上げて代表取締役に就任。2007年にニフティ(株)がフォーラムサービスから撤退したため、独自サーバを立ち上げて鉄道フォーラムのサービスを継続中。鉄道写真の撮影や執筆なども行う。

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