大砲のない「海賊船」は水戸岡デザインの真髄だ 船の「ななつ星」は、平和を祈るシンボルだ

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ロワイヤルⅡの基本設計を流用することは決まっていたが、それ以外のデザインは箱根観光船の担当者と水戸岡氏がゼロから発想した。外観はゴージャスな金色。「戦艦ではなく、平和を祈るシンボルに」という理由から、従来の船にあった大砲を模した装飾を取り外した。内装は「女王陛下の宮殿のような感じ」(水戸岡氏)。戦艦・海賊船から豪華客船のイメージへと転換した。

寄木細工の床やカラフルないすなど「水戸岡ワールド」が広がる船内(撮影:尾形文繁)

船内に一歩足を踏み入れると、鉄道の世界ではおなじみとなった「水戸岡ワールド」が広がる。寄木細工の床材、大川組子の装飾。さまざまな色や模様を施した5種類のいす。いずれもななつ星の職人の手によるものだ。大人用のいすに混じって、2~3歳の子どもが座るような小さないすもある。「SL人吉」や「あそぼーい!」にも子ども用のいすがある。水戸岡氏は「これまで手がけてきたいろいろな鉄道デザインの集大成」と話す。

中でも黄金の壁をバックに配された「女王陛下の玉座」は、この船のクライマックスだ。「ぜひ玉座に座って写真を撮ってほしい」と水戸岡氏。船外に出ると、「見張り台」が8カ所もある。ちょっと多いのではと思ったが「映画『タイタニック』で、船首で腕を広げて風を感じるシーンを再現できます」という。要は「多くの人に楽しんでもらえるよう、インスタ映えする場所をたくさんつくろうということです」。

価格上昇はこだわりの結果

建造には12億5000万円が投じられた。ロワイヤルⅡの建造費が約10億円だったことを考えるとやや割高だ。労務費や資材費が値上がりしたこともあるだろうが、「水戸岡先生の細部に至るこだわりが価格上昇の一因になっていることは間違いありません」と、箱根観光船の担当者は話す。

それでもコストもスケジュールもオーバーしてしまった。「いつものことですが」と水戸岡氏は苦笑いしつつ、「お客様に最高のものをプレゼントするためにはそれがいちばんいいのです」。

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