大砲のない「海賊船」は水戸岡デザインの真髄だ 船の「ななつ星」は、平和を祈るシンボルだ

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凝った装飾を施した階段の踊り場(撮影:尾形文繁)

階段の踊り場の壁に設置された組子細工の装飾は、試乗会の参加者の誰も足を止めて食い入るように見つめるほど美しい。列車の内装よりもノビノビとした感じにあふれるのは、船の内部は鉄道車両よりもずっと大きいからだろう。船という新しい舞台を得て、水戸岡デザインは今までとは違う輝きを得た。

ただし一方で、こうした水戸岡氏独特の和洋折衷デザインは鉄道ファンにはすでに見慣れた存在だ。「和洋折衷ではなく17~18世紀の欧州風のデザインのほうが女王陛下の宮殿に近いのでは」と水戸岡氏に聞いてみた。

返ってきた答えはやっぱり「コスト」だった。「本格的な洋風デザインをやろうと思ったら、この程度のコストでは済まない。コストの制約がある中で最大限、お客様に満足していただけるデザインを作るためには、自分の得意分野で作るしかない」。

水戸岡デザインの「手堅さ」

「クイーン芦ノ湖」の前に立つ水戸岡氏(撮影:尾形文繁)

水戸岡氏の得意分野。それは、ななつ星など一連の鉄道デザインで培われたノウハウである。デザインを形にする職人達とは何度も仕事をしていて、気心も知れている。工業製品でいう「試作コスト」が減るぶん、少ないコストで最大限の効果が狙える。

これは、船舶に限らず、全国各地のローカル鉄道会社が採用している「水戸岡デザイン列車」にも当てはまる。投じた費用よりもはるかに見栄えのする列車ができる。しかも全国に成功例がたくさんあり、失敗するリスクも少ない。

車両のあちこちに装飾があるのは水戸岡デザインの特徴の1つだが、これは車両のあちこちで記念写真を撮ってほしいから。「インスタ映え」という言葉が流行するはるか昔から、水戸岡氏はこのように語っていたが、スマホ写真が普及する何年も前からブームを先取りしていたともいえる。

水戸岡デザインの人気の理由は、このように乗る人、見る人に楽しんでもらうことに徹していることにある。水戸岡氏はJR九州の新たな観光列車や池袋を回遊する電気バスなど現在もたくさんの乗りものをデザインしているが、今後は水戸岡ファンがあっと驚くような新たなデザインの登場も、ぜひ期待したい。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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