団地を支える「高齢者と外国人労働者」の現状 「孤独死」が増え続ける限界集落が生き残る道

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相次ぐ孤独死は、中沢さんに衝撃を与えた。

「誰にも知られることなく死んでいく。こんなに寂しいことはないですよ。たぶん、私の知らないところで、しかし同じ団地の中で、こうした死が相次いで起きているであろうことは容易に想像できました。もしかしたら、見て見ぬふりをしてきたのかもしれません。亡くなった方の無念を思うと、胸が塞がれたような気持ちになりました。人間の生が大事である以上、死もまた、大事にされなければいけない」

第一期住民としての、団地に対する愛着と誇りもあった。自治会長としての責任も感じた。

以来、中沢さんは「孤独死ゼロ」を掲げて奮闘を続けることとなる。

「死に方というのは、生き方を写す鏡でもあるのだなあと。死の現場から、その人の生きてきた軌跡が見えてしまう。だからこそ、せめて、死ぬ瞬間だけは後悔のないようにしてあげたいんです」

団地から孤独死をなくそう──中沢さんはそう訴えて回るようになった。自治会活動の重要事項にも位置付けた。自治会長として最初に手がけたのは「孤独死110番」の開設だった。自治会事務室の電話番号を周知させ、通報システムをつくったのだ。また、新聞販売店にも協力を要請し、前日の新聞がそのままであったら、すぐに連絡してもらう体制もつくった。

「ふれあいサロン」を開設

そして「孤独死ゼロ作戦」の目玉として設けたのが、団地1階の空き店舗スペースを利用してつくられた「ふれあいサロン」である。これは2007年にオープンした。カフェ型のオープンスペースだ。団地内の高齢者がいつでも利用できるよう、年末年始を除き、ほぼ毎日、営業している。

入場料は100円で、コーヒー、紅茶はお代わり自由。高齢者の話し相手になったり、飲み物の供し手も、団地に住むボランティアの高齢者が中心だ。

サロンをのぞくと、お年寄りが楽しそうに会話している。持病のこと、近所の噂話、子どもや孫のこと。つまりは井戸端会議である。

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かつての団地にあった光景だ。人と人との距離の近さ。無駄話。他者への関心。

「実は、そうしたことこそ、孤独死を防ぐために必要なんですよ。そう思ってサロンをつくったんです」(中沢さん)

さらにいま、必要だと考えているのは、増えつつある外国人住民との「共生」だという。

老いてゆくばかりの日本人世帯と違い、働き盛りが多い外国人世帯は、あるいは将来の団地の主役になるかもしれない。本来であれば、団地の潜在的成長力としてもっと期待されてもいい。だが、言葉や文化の違い、あるいは高齢者にありがちな多文化への警戒心から、交流は進まない。

いずれ、その外国人だって老いてゆく。孤独死に国籍は関係ない。だからこそ、「通じあう」ことの必要性を団地住民すべてに訴えたいと中沢さんは話した。

安田 浩一 ノンフィクションライター

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やすだ こういち / Koichi Yasuda

1964年生まれ。週刊誌記者などを経て2001年よりフリーに。著書に『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)、『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』(朝日新聞出版)、『「右翼」の戦後史』(講談社新書)、『団地と移民』(KADOKAWA)、『愛国という名の亡国』(河出新書)など多数。2012年『ネットと愛国』(講談社)で講談社ノンフィクション賞を受賞。2015年『G2』(講談社)掲載記事の『外国人隷属労働者』で大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)受賞。

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