台湾カリスマ経営者の危なすぎる「政界進出」 米中ハイテク摩擦の最前線、台湾現地報告

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中国との関係について、郭氏のスタンスは2014年の「ひまわり学生運動」に関するコメントが雄弁に物語っている。台湾政府が中国との経済関係強化のために結んだサービス貿易協定に対する抗議活動に対して、「民主主義でメシは食べていけない」と発言し、中国へ積極的に接近する姿勢を示したのだ。

中台統一を目指す中国にとって、郭氏はキーパーソンとなりえる。郭氏も自らの立ち位置を理解して、鴻海の事業拡大に利用してきた。中国で、地元政府から雇用の維持や投資に対して補助金などの優遇を引き出すしたたかさも見せた。

ところが米中貿易摩擦の勃発で、郭氏も「親中国」だけではすまなくなった。2017年にアメリカのウィスコンシン州にパネル工場を新設すると発表した。国内の雇用拡大を目指すトランプ大統領を満足させ、同州からも補助を受けるとされた。

アメリカが中国へのハイテク技術流出に厳しい目を向けるようになると、2019年3月には台湾南部の高雄市でデータ関連機器の工場を建設すると表明。「データ関連の工場は敏感な場所には設置できない」として、中国でなく台湾に建設する意義をアピールし、中国に傾倒していない姿勢を示した。

「投資がいつ始まるかはわからない」

もっともアメリカや台湾での投資がいつになったら実行されるのかは社内でも不明だという。アメリカで建設が予定されている液晶パネル工場は一時的に投資計画が凍結されたが、2019年2月にトランプ大統領からの要請で一転して建設の継続が決まるなど、紆余曲折が続く。

データ関連機器の工場を造ると発表した高雄市では「前科」がある。2008年にも高雄市に研究開発施設の建設を表明したが、建設されて正式に運用したのは遅れに遅れた8年後の2016年だった。今回の新工場も「投資がいつ始まるかはわからない」(鴻海関係者)のだ。記者は複数の建設候補地を訪れたが、いずれも広大な敷地はがらんとして何もなかった

2018年末に実施された統一地方選挙で、高雄市長は台湾独立志向の民主進歩党(民進党)から国民党に入れ替わった。現地では「国民党を応援するために投資を表明した」との声も出る。

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