日米貿易協議で安倍首相に残された「2つの道」 早くまとめるか、時間をかけてゆっくりか

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ライトハイザー氏と密接な関係を持つ元USTR交渉担当者である貿易専門家のクライド・プレストウィッツ氏は、「私が思うに、現時点でボブ(ライトハイザー氏)はほぼ完全に中国との交渉に集中している」と、同様の意見を述べる。「日本との交渉をよく考える時間があったとは思えない」。

安倍政権は、今回の貿易協定交渉は「物品貿易協定(TAG)」に関する交渉であると主張し続けており、関税問題からサービス、通貨問題さえもかかわる、両国間の広範な自由貿易協定であると表現するのを避けている。一方でトランプ政権は、このTAGという言葉を明確に否定し、2018年9月のニューヨークにおける日米首脳会談の共同声明は「サービスを含むほかの重要な分野」を含むものであると指摘している。

「日本との交渉は非常に緊急性がある」

自身の主張にもかかわらず、安倍首相はすでに関税手続きや、為替などの問題を含み得るより広範な合意の考えを認めている。問題は、日本がその見返りとして何を得るかだ。日本にとっての大きな課題は、1962年の通商拡大法第232条に基づき、アメリカへの自動車輸出に25%の関税を課すという、国家安全保障を理由とするトランプ大統領の脅威を取り除くことだ。もう1つの目標は、アメリカにより昨年から始まった鉄鋼とアルミニウムに対する関税を撤廃することである。

トランプ大統領との対応にあたり、日本にはいくつか優位な点がある。トランプ政権は現在、農業従事者とその彼らが支持する議員から強い圧力を受けている。新たな環太平洋パートナーシップ協定であるTPP-11が1月1日に施行されて以来、アメリカの食肉生産者はカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの国々の競合に急速に市場シェアを奪われているのだ。カナダの日本への牛肉輸出は3倍になり、TPP諸国からの日本への輸出は60%増加した。

また、日・EUパートナーシップ協定の影響で、ヨーロッパからのワイン、チーズ、その他の製品の日本への輸出に対する関税が引き下げられている。先日ライトハイザー氏は議会聴聞会で、TPPとEUのパートナーシップ協定が発効したため、「日本との交渉は非常に緊急性のあるものである」と感じていると語った。

先の共同声明で日本政府は、アメリカの自動車産業の雇用を増加させる日米間の合意への姿勢を、TPPやEUとの合意で日本市場へのアクセスの「最高水準」を設定されている農業協定に非常に巧みに結び付けた。日本にとってこのことは、TPPメンバー国とヨーロッパに与えたのと同じ(だが、それ以上ではない)譲歩を、アメリカにも与える用意があるということだ。

これにより、ライトハイザー氏が農業市場の問題について早期合意を求め、残りの問題は後で交渉する可能性があるという推測が生まれた。これには双方にとって政治的な道理がある。トランプ大統領にとっては、アイオワ州のような特定の州で大きな有用性のある、明確で目に見える「勝利」を主張することにある。

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