アメリカの富豪が熱望する「不老長寿薬」の正体 グーグルもアマゾンも投資を始めた理由とは
そんなカリコのトップには、アップルの取締役会長で、バイオベンチャーの草分け、米ジェネンテックを長く率いたアーサー・レヴィンソン氏が就任。さらに創業メンバーとして、医学研究の名門、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のシンシア・ケニヨン教授も加わった。同氏は1990年代に回虫(寄生虫の一種)のDNA情報を1字変えるだけで、通常3週間の寿命を6週間に延ばすことに成功するなど、老化研究の第一人者だ。こうした産業界、学界の大物を呼び寄せたことで、グーグルの本気度が知れ渡った。
老化研究のベンチャーに特化したベンチャーキャピタル、米ロンジェビティファンドを率いるローラ・デミング氏は東洋経済の取材に対し、「カリコが登場したことで、起業家や投資家の間に老化研究が重要だという認識が一気に広がった」と指摘する。デミング氏自身も幼い頃に老化研究に興味を持ち、11歳のときにケニヨン氏の研究室に“弟子入り”した。そこから14歳でマサチューセッツ工科大学(MIT)に飛び級したという天才だ。
米国を中心に老化研究が急速に進展
老化研究の分野はベンチャー投資の規模こそ小さいが、将来のスタートアップの卵となる基礎研究が活発化している。実際、NIH(米国立衛生研究所)傘下の国立老化研究所の予算は、この6年で3倍にまで増加した。老化研究の専門家、米セントルイス・ワシントン大学の今井眞一郎教授は、「酵母や線虫、ハエ、マウスなどを使い、この10年で老化を制御する共通の因子がわかってきた」ことを理由に挙げる。有力な学会には、欧米のベンチャーキャピタルが殺到しているという。ただ、「日本のVCは非常に少ない」(今井氏)。
そうした因子がかかわる現象の一つが、細胞の老化だ。学界ではここ15年ほどで、老化した細胞が炎症を起こす因子を分泌し、周囲の細胞や組織に損傷を加えるということがわかってきた。これが多くの加齢疾患を引き起こしていると考えられている。
前出のアマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏は、加齢とともに体内に蓄積する老化細胞を破壊する医薬品を開発するベンチャー、ユニティ・バイオテクノロジー社に個人で出資した。現在はひざ関節の老化細胞を除去して変形性関節症を治療する薬「UBX0101」が治験第1相に入っている。
同社には前出のロンジェビティファンドや、米ペイパル創業者でシリコンバレーの大物投資家として知られるピーター・ティール氏も投資している。昨年5月にはナスダック市場に上場した。老化細胞を死滅できれば、がんや糖尿病、アルツハイマー病など、多くの疾患治療の突破口になるかもしれない。そんな可能性に大物投資家の期待が集まった。
「セノリティクス」と呼ばれる老化細胞を破壊する薬の開発を進めるバイオベンチャーは増えている。老化研究の専門家、前出の今井教授は、「老化研究にもトレンドの移り変わりがあり、セノリティクスはその1つだといえる」と話す。
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