「中途入社組がすぐ辞める」日本企業の深刻実情 流出で数千万円の損失を発生させた企業も

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些細なことと感じる人がいるかもしれませんが、個人によって受け止め方は違います。小さいはずのストレスもたまり続けて大爆発となれば、退職を考える要因になりえます。そこに、“とどめ”となる要因が加わると、たちまち退職を決断となる可能性が高まります。ですから、こうした要因による退職決断のシグナルを見逃さないことは、とても重要であると考えます。

ちなみにとどめとなる要因とは? 人事コンサルティングの経験から大別すると「押しの要因」「引きの要因」の2つがあります。

押しとは「辞めてもいいよ」と思わせる発言や職場の雰囲気。例えば「当面は厳しい状況が続く」とか「耐えて忍ぶだけ」といった、経営陣の発言から将来性を感じられない状況がそれにあたります。

引きとは「君を必要としている」といった社外からの魅力的なオファー。例えば、スカウトメールで年収アップの可能性を示された、などです。こうした、押し引きの環境におかれると、人は転職を考えたりするものです。

理由が不明で急な有給取得があった。当事者意識が足りない発言が増えた。来年度以降の仕事の話をしても気分がのらない様子がうかがえる……など、退職を考え始めると、そのシグナルが見え隠れします。

職場の管理職やリーダーがそれを見逃さないように、退職のシグナルとなる典型的なパターンを理解するようにしましょう。同時に、定期的に対話の機会を持つことを促すことで、退職の可能性に気づき、早めの対策を行い、退職率を下げることに寄与できるはずです。

オンボーディングという取り組み

さらに、退職を減らすヒントとして注目されているのが、オンボーディングという取り組みです。

これは、職場に配属された社員が1日も早く戦力化し、組織全体との調和を図ることを目的とした仕組みづくりのこと。機内や乗船という意味を持つon-boardから派生して生まれた造語であり、新しく組織に参加したメンバーが早期に活躍できるよう環境を支援することを目指します。

前述した「押しの力」を失くすことができる取り組みとしてオンボーディングは非常に有効と思えます。例えば冒頭に登場した、中途組ゆえの戸惑いを早々に払拭するためにも、契約関連、人事関連、IT関連、などの手続き業務や企業が大切にしている価値観や方針の伝達、所属チームやメンバーの紹介、業務に必要な知識、さらにはオフィス周辺のランチ事情などを早々に共有するのです。

現在ではレクチャー方式で行うケースを見ますが、将来的にはクラウドのサービスなどを活用して、普及していくと考えられています。すでに中途組の退職率を下げる目的で導入を始めた企業が徐々に出てきています。このようないくつかの取り組みを組み合わせて、貴重な人材である中途組の退職を減らしていきましょう。

高城 幸司 株式会社セレブレイン社長

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たかぎ こうじ / Kouji Takagi

1964年10月21日、東京都生まれ。1986年同志社大学文学部卒業後、リクルートに入社。6期トップセールスに輝き、社内で創業以来歴史に残る「伝説のトップセールスマン」と呼ばれる。また、当時の活躍を書いたビジネス書は10万部を超えるベストセラーとなった。1996年には日本初の独立/起業の情報誌『アントレ』を立ち上げ、事業部長、編集長を経験。その後、株式会社セレブレイン社長に就任。その他、講演活動やラジオパーソナリティとして多くのタレント・経営者との接点を広げている。著書に『トップ営業のフレームワーク 売るための行動パターンと仕組み化・習慣化』(東洋経済新報社刊)など。

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