大手のプライドを捨てられない46歳男性の苦悩 40歳で退職、7社転々として現在アルバイト

✎ 1〜 ✎ 52 ✎ 53 ✎ 54 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

4月以降、月収は8万円に届かない。以前に購入したマンションのローンはすでに完済しており、メンタル疾患による障害年金が毎月約11万円支給されるので、なんとか生活はしていける。

結婚はしていない。かつて、複数の結婚相談所に登録したこともあったが、縁に恵まれないまま、40歳をすぎたころに退会。「アルバイト生活の今となっては、結婚は到底無理でしょう」

一方、転職を繰り返すことについて、父親からは「我慢が足らない」などと言われるという。これに対し、ヨシユキさんは「じゃあ、100%自己責任だと言われたら、それはちょっと承服できません」と言う。

ヨシユキさんの社会に対する不満はこうだ。

「人材の流動化とか、ダイバーシティーとか、みんな真っ赤なウソ。実際は、大手企業は35歳までしか採用しないし、中小企業でも(入社できるのは)40歳くらいまで。年を取ったら、大手企業に就職するのは不可能。どんなに頑張っても、あがいても、40歳を過ぎてリストラされた人は、受け入れられない構造になっている」

一理ある。しかし、再起をかける場が大手企業でなくてはならない、ということはないだろう。

:いたずらに転職を繰り返せば、諸条件は下がっていくとは思わなかったのですか?
ヨシユキさん:まったく考えもしませんでした。僕はただ、チャレンジできる環境がほしかったんです。
:ヨシユキさんはこれまで10回近く転職しています。チャレンジの機会は十分あったのでは?
ヨシユキさん:全然、足りません。それに、35歳を過ぎたら、大手企業は採ってくれないじゃないですか。今度は働き続ける自信はあるか、ですか? それはわかりません。でも、挑戦する機会はあってもいいと思います。
:大手企業でなくてはダメなんですか。プライドが邪魔をしているようにも見えますが。
ヨシユキさん:……。それは、あります。中小、零細の会社がどうしても色あせて見えてしまう。でも、例えば、安倍首相は「一億総活躍社会」と言っていますよね。だったら、それぞれに見合った活躍の場を用意すべきです。僕に見合った活躍の場? そうですね……。年収は少なくとも400万円以上、正社員。だったら転職してもいいと思います。
:メンタル不調は他人事ではないし、会社による追い出し部屋送りは問題です。でも、実際の労働市場では、そうした経験が、マイナスの評価となる現実は否定できません。
ヨシユキさん:たしかにそうかもしれません。でも、それらを差し引いても僕にはそれだけの価値があると思います。

いっそすがすがしいと、私は思った。むしろ残念だったのは、大手企業をリストラされたり、転職を繰り返したりしたことについて、自分にはまったく責任はないのかと尋ねたとき、「1、2割くらいは、僕にも責任があるかもしれません」と言われたときだ。どうせなら、「自己責任なんてくそくらえ」と言ってほしかった。

現在、アルバイトをしている会社も、いつ辞めるかわからない。「介護労働とか、タクシー運転手とか。選ばなければ仕事はあります。ただ、老後は心配。そのときは生活保護にすがるしかないです」。

乾いた物言いから透けて見えるように、今の心境は「諦め」だという。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事