強すぎる安倍政権が「令和」に残した大きな課題 平成時代の経済は後にどう評価されるのか

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

哲学でいうところの“弁証法”を持ち出すまでもないが、1つのテーゼにはつねにアンチテーゼが存在し、それが競うことによって次の新しいテーゼが生まれる。しかし、いまの政治体制は、「一強」の名が示すようにアンチテーゼが存在しない。

もっと簡単に、かつ現実的にいうなら、さまざまな決定におけるチェック機能が働かなくなっている。例えば自民党内でも、かつてのような活発な政策論議が聞かれなくなったという。経済界も、官邸の要請に安易に応じる傾向がある。

2017年12月に2兆円規模の経済対策と98兆円規模の2018年度予算案が決まったとき、ある与党議員は「こんなに反対のない、いや、そもそも党内で議論のない政策決定はいままでになかった」と訴えていた。このときの経済対策に関しては、閣議決定の前に経済財政諮問会議や未来投資会議での議論も十分なされていない。

経済界も同じだ。経済対策の決定過程で内閣は、経済界に3000億円もの負担を求めた。これに対し経団連などは、そのまま受け入れた形なった。

安倍政権は、次の時代への遺産を作れるか

もちろん、最大の責任は野党にある。国会は立法府であり、次の時代のために必要な立法措置を議論し講じるところだ。しかし野党は、まるで少数であることを言い訳にするように、正面からの政策論議をほとんどしなくなった。森友・加計問題などで政府の揚げ足取りのような議論ばかりを展開している。そもそも、選挙で当選することだけを目指したような政党の組み替えをしていては、政府に対する健全なチェック機能は果たせない。

『平成の教訓 改革と愚策の30年』(書影をクリックするとアマゾンのサイトへジャンプします)

第2次安倍内閣が日銀を中心に政策体制を立て直したことに加えて、世界経済がよくなったことにも助けられ、日本経済は相当によくなった。しかし、世界との差はむしろ広がってしまった可能性がある。

重要なのは「安倍政権のレガシーは何か」という問題である。長期政権だからこそ、そのレガシー(次世代への遺産)が問われる。中曽根内閣における国鉄や電電公社の民営化、小泉内閣における不良債権処理や郵政民営化に匹敵するものは何か。

安倍内閣は、これまでは困難といわれてきたことを、少なからず実現している。インバウンド訪日客の画期的な増加、労働基準法改正、外国人労働者の受け入れ拡大、IR(カジノを含む統合型リゾート)法の成立、などだ。しかし、国鉄民営化・郵政民営化のような、よりスケールの大きい改革を国民は期待している。

やるべきことはある。安倍内閣は、現在の経済をよくする政策をかなり実現させた。今後は、次の時代の経済をよくする政策を、さらに実行しなければいけない。それが政権のレガシーとなる、と私は考えている。

竹中 平蔵 慶應義塾大学名誉教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

たけなか へいぞう / Heizo Takenaka

1951年、和歌山県和歌山市生まれ。一橋大学経済学部卒業後、73年日本開発銀行入行。81年に退職後、大蔵省財政金融研究室主任研究官、ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年より小泉内閣で経済財政政策担当大臣、郵政民営化担当大臣などを歴任。

現在、東洋大学グローバル・イノベーション学研究センター長・教授、慶應義塾大学名誉教授、世界経済フォーラム(ダボス会議)理事などを務める。博士(経済学)。著書に『平成の教訓 改革と愚策の30年』(PHP新書)、『この制御不能な時代を生き抜く経済学』(講談社+α新書)など多数。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事