幼児を放置して「彼氏」に会う42歳女性の悲哀 北関東出身で、親の愛を知らずに育った

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一家が暮らす団地の一室は、いつも母親の怒鳴り声と子どもの絶叫するような泣き声が聞こえる。毎日、うるさいので隣近所には嫌われている。近所付き合いは一切なく、保育園のママたちの中でも浮いている。ネグレクトや虐待の自覚はあって、このままではいけないと思っても、やめることはできないという。

前々回の記事(北関東出身の彼女が地元と実家に絶望するワケ)がアップされたその日に、沢田さんから“私も同じ境遇で、すごく共感しました”というメッセージが届いた。

「あの東京に逃げだした女性は、私と同じだと思いました。専門学校在学中に彼氏ができて、苦しかったあの実家とあの地域からでました。それから離婚したり、精神疾患になったりして、ずっと苦しい生活は続いています。

離婚したのは震災の年で、最終的に本格的に精神状態がおかしくなって。境界性パーソナリティ障害、しばらくして解離性障害もあると診断されて、働くことはドクターストップがかかっています。だからこの8年間、ずっと無職です」

障害者手帳は3級で、無職。収入は厳しく、長男の父親である元夫からの養育費4万円、児童扶養手当5万2900円、児童手当2万円。この8年間は月11万2900円の収入だけで一家は暮らしている。6年前、厳しい経済状態の中で出産して扶養家族は増えてしまった。安い家賃など、さまざまな減免があってなんとか暮らせている。

北関東では長男だけが優遇される?

そして、前々回の北関東から東京に逃げた女性と、沢田さんの出身地は同じ県だった。2人とも実家の場所を詳しく聞いたが、距離もそんなに離れていない。産業も観光も、目立った商業施設もない北関東のある県は、どうして続々と女性たちの精神がむしばまれ、また逃げだすほど閉塞しているのか。

「私がおかしくなったのは、育った環境からだと思うんです。実家は旧家の本家でお兄ちゃんしか大切にされなかった。私は親から愛された記憶は一切ありません。子どもの頃から今に至るまで本当にどうでもいいって感じです。

親に褒められようと頑張っても、おまえは恥ずかしい子、外を出歩くなみたいな。学校ではイジメられ、家では恥ずかしい子扱い。子どもの頃から、ずっとひたすら淋しかった記憶があります」

長男だけが優遇されるのは、北関東では名家も貧しい層の家にも共通する風習のようだ。彼女だけではなく、北関東で取材すると、ほとんど全員が同じことをいう。兄は頭脳明晰で成績優秀だったこともあって、両親の愛情と期待は長男だけに集中した。彼女は生まれたときから、一言すら褒められた経験はないという。

「男の人に依存するようになったのは高校時代から。男の人だけは優しくしてくれた。実家を出たのは専門学校在学中のとき。付き合っていた年上の男から逃げて、埼玉の大宮に行った。学校は辞めて水商売をしながら、ずっと一緒にいたくてその男と同棲したんです。すごく稼げてお金には困らなかったけど、相手はギャンブル狂いで借金まみれでした」

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