IHI、不正発見の機会をみすみす逃した重い代償 無資格検査の内部告発が1年前にあったが…
航空会社のほとんどはエンジンを整備に出す際、「JCABだけでなくFAAの検査も同時に行ってほしい」と依頼する。JCABのみでも、JCABとFAAの両方でも検査料金はほぼ変わらない。一方で、中古エンジンを売却する際、FAAの検査も受けておいたほうが高く売れるからなのだそうだ。
国交省からの処分待ちの状態であることから、3月18日現在、IHIは瑞穂工場における民間航空機エンジンの修理検査作業を自主的に停止し、再開メドは立っていない。瑞穂工場内には、整備途上のエンジンが現在数十台あるという。整備に取りかかる前段階だったエンジンは同業他社に整備を依頼。部品のみの整備は、新品を手配することで代用していくという。
約4万件の検査記録を調査
今回発覚したのは国土交通省やJCABが今年1月に立ち入り検査に入り、国交省の指摘を受けて、整備記録の不整合を詰めたからだった。国交省職員がFAAの整備記録をつぶさに見ると、ある有資格者が1人では到底こなしきれない量の検査をしていたことが判明。そこで、「FAAのマニュアルに則って検査をしたはずの者は有資格者ではないのではないか」という疑いを持った。国交省の指摘を受けてIHIは過去2年分の約4万件の検査記録を調べた。過去2年分に限定したのは国交省の指示による。
IHIは瑞穂工場の検査員に「記録の通りなら1人の検査員ではさばききれない量の検査をしていることになる」「有資格者の印鑑を使い回しているのではないか」などと記録に基づいて何度もヒアリングを重ねて問いただした。すると、154人の検査員のうち32人が「実は無資格者が検査をし有資格者の印鑑を借用していた」と認めた。
記録に不整合はないが、無資格者が検査していたケースも考えられる。だがそれは記録の深掘りからはあぶり出てきようがない。今回はあくまでも記録の不整合を掘り下げた調査結果である。
瑞穂工場には検査歴30年のベテランで、誰よりも外観検査が得意な検査員がいるのだという。FAAの有資格者は、「まず社内で技量認定をし、さらにFAAのマニュアルに基づいた講義をし、英語で試験をしている」(盛田英夫執行役員)。上述のベテラン検査員は技能は高いが、英語が苦手なので英語での講義や試験を受けていない。そこでこの検査員は、自ら検査した後に有資格者の印鑑を借り受けていた。
盛田氏は「今回の問題の本質はここにある」と語る。つまり、有能だが無資格のベテランが検査をしていて、それが新人のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)にも広がっていった。そうした現場の実態を、他社で無資格検査が発覚し、しかも内部告発があったにもかかわらず、本社は把握できずにいた。
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